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湯豆腐に鰺のヒラキというのは、温泉旅館の朝の定番だろうが、[福住楼]の豆腐と干物は美味い。平凡に徹した先に開けた非凡の境地といったところか。 NHKの朝7時台のニュースが放送時間の終わりに近づいて、桜の中継になった。この週は関西の桜の名木を紹介している。その朝は奈良の「又兵衛桜」と呼ばれる桜。戦国武将・後藤又兵衛ゆかりだという。又兵衛は大坂の陣で討ち死にしたとされているが、じつはこの地の落ち延びてきて、この桜を植えたのだという。 もちろん、これは史実よりも伝説であろう。しかし、何年ぶりかで[福住楼]で迎えた、まさにその朝に、後藤又兵衛にまつわる話題に触れたことに興を覚えた。 [福住楼]は大佛次郎の馴染みの宿でもあった。館内のバーは[帰郷]という店名だが、これは大佛が戦後、毎日新聞に同題の小説を連載していたとき[福住楼]によく滞在して執筆したことにちなむ。 そして大佛次郎には後藤又兵衛を描いた『乞食大将』という時代小説があるのである。 戦時中の作品である。ろくでもない軍人ばかり多いので、颯爽たる戦国武将を描くことに鬱屈した思いをぶつけたのだという話をどこかで読んだ覚えがある。正面切っての軍国主義批判ではないにせよ、それも時局に対する作家の抵抗であったのだろう。 三条河原での乞食生活は、司馬遼太郎の小説『風神の門』にも描かれている。人間味があって、なかなかに風流な日々である。 司馬さんも、後藤又兵衛のことが好きだったらしい。他の作品にも何度か登場させている。たとえば『軍師二人』という短編の、その二人の軍師とは真田幸村と後藤又兵衛のこと。大坂ノ陣では、豊臣方の圧倒的な劣勢をもしかしたらひっくり返せるだけの軍才をこの二人は持っていたのに、城方の無能な首脳たちは彼らの将器を見抜けず、幸村や又兵衛の献策はことごとくしりぞけられる。結局、二人は、後世にくり返し語り伝えられるほどの華々しい戦いぶりを局地的戦闘で演じてみせて討ち死にするのだ。 同じテーマは長編『城塞』でも取り上げられる。二人の武将は、お互い相手を理解しつつも、いくらかの葛藤もあったらしい(というふうに作者は描いている)。司馬さんは、真田幸村の軍才に最大の敬意を払いながら、後藤又兵衛のほうにより親近の情を持っているように思われる。 ところで、佐高信さんはじめ、司馬遼太郎と藤沢周平を比較する論者は多いけれど、大佛次郎と司馬遼太郎とを比べて論じたものはあまり見当たらないような気がする(酔流亭の知見が狭いだけか?)。二人の世代が違うからだろうか。1897年生まれの大佛が1973年に亡くなったあと、1923年生まれの司馬がそれまで大佛のいた場所に座ったような格好だ。歴史小説の第一人者という場所に。 そして、いま本屋に行っても大佛次郎の本はなかなか見当たらないけれど、司馬遼太郎は死後13年経っても、なおブームが続く。たとえば同じ朝日文庫から出ている大佛の『天皇の世紀』はいま絶版だが、司馬の『街道をゆく』は版を重ねている。司馬さんのいた場所に座る、現代の小説家がまだ現れていないということもあるのかもしれない。それに『天皇の世紀』では作者は読者を愉しませようという気持ちを捨てて歴史の事実だけを追っているから、あれを読み通すのはたしかに大変だ。 パリ・コンミューンを題材にしたノンフィクション(『パリ燃ゆ』)も書いている大佛より、『坂の上の雲』で明治の日本を顕彰した司馬のほうが、経済成長を経て体制に親和的となった最近までの我々の気分に合っていたということもあろう。しかし、この点については、事情はまた変わっていくかもしれない。酔流亭なんかは、明治の軍人の英雄神話よりも、1871年にパリで蜂起した労働者に共感する。 旅日記の途中で、別の話題に寄り道してしまいました。旅のほうは、まだ続きます。 (つづく) ※関連する過去ログとして ☆『「坂の上の雲」第一巻についてのレポート』(08年10月19日)
by suiryutei
| 2009-04-15 17:48
| 旅行
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