新人事制度 大阪での報告①~③
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この連休中に読んだ本である。『生きる術としての哲学 小田実 最後の講義』(岩波書店 2007年10月刊)。 たとえば阪神淡路大震災のときのこと。西宮市に住んでいた小田さんも被災者であった。 「政治には、まず不信感を持つべきです。これが『される側』の第一鉄則です。たとえば『弱者救済』と言ったら、まず嘘だと思ったほうがいい。弱者救済の美名の下に、別の思惑が働いているはずです」。 「被災からちょうど一年経って、私は被災者を連れて東京で大集会を開きました。車椅子の人も在日朝鮮人も連れてきた。それが、被災者が公的に発言した最初です。それまでの東京の運動は、『かわいそうな被災者』に対する恩恵主義になっていました。私たちは、私たちの権利として生きている。ところが、東京の心ある人がたくさん集まった結果は、焦点が、車椅子の女性と在日朝鮮人の女性に行ってしまった。私は最後には怒った。みんなが困っている。弱者だけの問題ではないと言った。みんなが困っていて、そのなかでも、車椅子の人や在日朝鮮人はもっと困っている、と考えなければいけない」(第4章『地方自治と市民の政策』)。 すこし長く引用したのは、いま貧困と格差の問題をめぐって小田さんが怒ったのと同じ構図が作られているからだ。 「派遣切り」で仕事だけでなく住いまで失った人や年収200万円に届かないワーキングプアと呼ばれる人たちが今一番困っている。だから、この問題を解決することが最優先されなければならぬ。これは間違いない。 ところが、問題をこれだけに限定しようとする論者がいる。「既得権益を享受する正社員」対「搾取される非正規雇用」などと、あたかも正社員が非正規雇用の労働者を搾取しているかのように語る人もいる。この人たちがつぎに語ることは、「だから正社員が賃上げを要求するなんてとんでもない」「正社員の既得権を奪うことで格差を解消できる」だ。 事実は、大企業の正社員も含めて働く者全体の収入が減っているのである。そして、闘う条件により恵まれている(労働組合を持っている)のは非正規雇用よりも正社員のほうなのだから、彼らが闘うことを「自粛」してしまえば(現実はそうなっているが)、正規も非正規も含めて労働者全体の待遇はますます悪くなってしまう。 もちろん、闘える立場にある正社員の労組は、闘いとった成果をまずは非正規雇用の待遇改善にまわさなければならない。震災のとき小田さんも自身が被災しながら、被害のよりひどい人たちを助けるために奔走した。 「私自身も被災していましたが、戦場では軽傷者は重傷者を助ける、それと同じです。私が子どもに教えたのは、『困った人を助けろ』、人生訓はそれだけでいい。それで人間社会が成り立っている」。 これは、大企業の労組が肝に銘じなければならないことだろう。 さて、講義が行われた2002年というのは、「9.11」の翌年であり、アメリカのイラク侵略の前年である。戦争と平和の問題についての講義のあと参加者から「いまアメリカがまさにイラクを攻撃しようという状況ののなかで、市民運動の力の有効性について」質問が出る(第3章『戦争主義と平和主義』)。 小田さんは30年前(1972年)の相模原で米軍戦車を市民が止めたときの話をする。 相模原在住の山口さんという人も道路に座り込んだ。毎日毎日こんなことして何になるのかと思いながら座り込んだ。ところが30年たって意外なことがわかる。小田さんがベトナムを訪ねたとき、通訳のベトナム人が、頼んだわけでもないのに、なぜ自分が日本語の通訳をやっているかを話し出した。 「ベトナム戦争のときトンネルに隠れていた。士気が低下しているときに、アメリカ側のヘリコプターが来てテープを流す。女の子や子どもの声で『もうお父さん早く帰ってきてください。あんな無益なことやめて早く帰りなさい』と言っている。そのときがいちばんこたえたという。みな士気が低下しているし、逃げたやつもいるらしい。ところが、そのときに対抗手段ができた。それが何とNHKの短波放送だと言う。NHKのニュースで『日本でベトナムの人民を支援している人たちが活動している』と言っている。彼は日本語をかじっていたけれども、さらに勉強してその内容をみなに告げた。そうしたら元気が出てきた。みんなの士気が上がった」。 「そのなかでもいちばん力が出たのは、『日本の市民が戦車を止めました』というニュースだったと言う。100日間にわたって、ものすごい力になったと言っていた。その話を山口さんも一緒に聞いていた。彼は30年前にこんなことをしていったい何になるかと考えながら行動していた。30年たって、それがベトナムの人たちに非常に大きな励ましになっていたことがわかった。そういうものだと思う」。 あの当時、高校生だった酔流亭は相模原には馳せ参じそこねた。しかし、これからの行動にとって大きな励ましになる話だ。 ※小田実さんは2007年7月に永眠。 ※関連する過去ログとして ☆『戦車を止めようとしたのは悪いことなのか?』(07年12月14日)
by suiryutei
| 2009-05-05 21:19
| 文学・書評
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Comments(6)
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umetec1910 at 2009-05-06 00:45
『小田の部屋には大きな天皇の写真が額に入れて飾ってある。右翼に襲われたら写真を示して「これが本当の小田だ」と言うのだそうだ。』 小田の友人でサリンジャーの訳者として知られる(というよりクイズダービーの回答者として有名だった)鈴木武樹から直接聞いた話です。鈴木は夜学のクラス担任でした。 by ume
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suiryutei at 2009-05-06 21:08
umeさん、こんばんは。
右翼に天皇の写真というのは、ドラキュラに襲われたときニンニクの束を突き出すくらいの効果はありそうですね。いいアイデアです。 ウメの納骨も済んだのですね。今年はつらい春でしたね。
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kota
at 2009-05-06 23:36
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こんばんは初めまして、kotaと申します。
もともと蕎麦が好きで、色々なブログを拝見しているうちにこちらにたどり着きました。いつも更新楽しみにしています。 今日のベトナムと相模原の逸話ですが、すごく素敵だなと感じました。 あの時に相模原で戦車を止めようとしたのは悪いことだったのですかね? 本当に不思議でなりません、です。
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suiryutei at 2009-05-07 08:18
Kotaさん、初めまして。ようこそ。
蕎麦好きとは、うれしいです。これからもよろしくおねがいします。 この相模原の話、私もとてもいいと思いました。いま注目されている憲法25条のことも、小田実さんは生前最後のインタビュー記事(たしか『世界』に載ったと記憶します)で触れていましたね。
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saheizi-inokori at 2009-05-08 09:22
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suiryutei at 2009-05-08 10:40
佐平次さん、おはようございます。
まったく同感です。
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