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村上春樹おそるべしと思ったのは、自分が書き上げたばかりの小説に対する適切な評価を、しかもその小説の中でくだしているからだ。314ページの中ほどに、こうある。 「小説自体は面白くはあるし、ずいぶんうまく書かれている。文章は読みやすく端正であり、部分的には心を惹かれもする。しかし結局のところ罪のないただの幻想小説ではないか」。 これは『空気さなぎ』(BOOK1・2の読者にはおなじみの小説内小説)に対する牛河の感想だが、春樹は彼の口を借りて自分の書いた『1Q84』そのものをそう総括しているのだ。そんな気がする。なお牛河は、BOOK3では主役の二人(青豆と天吾)に次ぐ役割を与えられている。前作で青豆が「さきがけ」の教祖にマッサージを施しに赴く(そこで彼女は教祖を刺殺するのだが)前、牛河は青豆の身辺調査を教団に依頼されながら青豆が殺し屋であることを見抜けなかった。そこで今作ではなんとしても青豆の行方を捜し出さなければならない苦しい立場。 リトル・ピープルは今作にも登場するが、それは重要な場面ではない。だから読者は、リトル・ピープルとは何か、何を意味するのかなんてことは考えずに、青豆と天吾の行く末をひたすら按じてページをめくることになる。その「文章は読みやすく端正であり」、心を惹かれる部分はふんだんにある。たとえばひそかに撮っていたカメラのレンズを通じて「ふかえり」に正面から見返されたときの牛河の心の痛み。無垢なものにふれて打ちのめされたようなその心理の叙述など見事だ。 だから、2000円弱で600ページの大冊は、文章を読む愉しみと思えば損な買い物ではない。「しかし結局のところ罪のないただの幻想小説」だとしても、それはそれでよいではないか。 文章における比喩の多さについては、精神科医の斉藤環さんがが朝日の書評に書いていた。酔流亭は『野火』における大岡昇平を思い出してしまった。 その大岡昇平を引き合いにして春樹の旧作『海辺のカフカ』を批判したのは小森陽一さんだった。しかし、昔の偉い人を手本に現代の作家をこきおろすというのは、よくある手だが乱暴なところがある。大岡昇平のように状況と向き合う作家では春樹は元々ないからだ。そのことへの不満を酔流亭は小森さんと共有するけれど、同時にないものねだりをしたってしょうがないじゃないかとも思う。春樹は状況と対決はしないけれど、状況を感知する豊かな感受性は持っている。読者は、そういう作家として彼を受け入れるなり素通りしていくなりするしかない。ではオマエはどうなんだと問われれば、酔流亭は春樹の文章は嫌いではない。しかし、その世界にどっぷり浸かることはできない。そんなところだ。 ※関連する過去ログとして ☆『「海辺のカフカ」を、どう読むか』(06年8月28日) ☆『村上春樹「1Q84」』(09年7月28日) ☆『「1Q84」について、もうすこし』(09年8月11日)
by suiryutei
| 2010-05-09 19:01
| 文学・書評
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Comments(2)
Commented
by
nakayanh at 2010-05-09 20:08
酔流亭さん、今晩は。
私は、村上春樹の何処がそんなに良くてノーベル賞の候補に なるのか、何故あれほど売れるのか、全く判らないでいます。 部分的には面白く、文章は巧みなのですが、ただそれだけ なのです。「小説自体は面白くはあるし、ずいぶんうまく書かれている。文章は読みやすく端正であり、部分的には心を惹かれもする。しかし結局のところ罪のないただの幻想小説ではないか」。というのは全く私の村上春樹の小説に対する感想 そのものです。そう思っている人を馬鹿にしているのかも 知れませんし、村上春樹自身、自分の限界を判っているからかも 知れません。私から見ると、「人間とはこういうものです」 と、本質の塊を抉り出してくれているのが漱石で、「それは 自分で考えなさい」と、突き放しているのが春樹、というのが 漱石と春樹の決定的な違いであり、凄さの違いです。 春樹は自分で判っていてそう言っているのか、実は判らないから曖昧にせざるを得ないのか、私には判りませんが。 最近の何かの書評を見ると、1Q84第3巻には、その答えが 出ているとありますので、いずれ読まなくてはがと思いますが。
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by
suiryutei at 2010-05-09 21:19
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