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河村たかし名古屋市長が「南京事件というのはなかったのではないか」と発言したのは20日のこと。相手は中国共産党南京市委員会の訪日代表団なのだから、なるほど度胸はある。最近の嫌中ムードに乗って、その“度胸”を売りにするのが狙いだったのだろうか。 南京事件というのは、日中戦争さなかの1937年に起きた、日本軍による住民虐殺事件。酔流亭もつい最近、TVドラマ『カーネーション』のことを書いた一文でこの事件にふれた。黙っているわけにはいかない。 それにしても市長の挙げた理由というのが「終戦を南京で迎えた父親が現地で優しくされた」ことだとは。ならば逆の認識も可能であったのに。しかるに、中国人というのは何かあればそこにつけ込んでくる連中だという、他ならぬ河村氏のような人たちがまき散らす中国人イメージに氏自身がとらわれているのだろう。そういう民族が、虐殺が事実なら相手に寛大であるはずはない、と思い込んでいるのだ。 だが、与那覇潤氏(『中国化する日本』の著者)が述べているように、「南京事件そのものがなかったとの考えを支持するプロの歴史学者はいない」(朝日2/24朝刊)のである。ならば、にもかかわらず河村氏の父が南京で「優しくされた」のであるなら、それは中国の人々の度量の広さをこそ意味するだろう。恩を仇で返す日本のポピュリスト政治家とは反対に。 もちろん戦後の中国は理想の社会とは遠いだろうし、そこに住む人々も様々だ。しかし、あの戦争に対して、日本によってあれだけの被害を受けながらも、悪いのは当時の政府であって人民ではないという立場を中国政府が基本としてきたことには、私たちはやはり頭が下がるのである。石橋湛山が1960年に述べた以下の言葉を思い出さないわけにはいかない。 「・・・しかも相手は暴虐の限りをつくした日本に対して、仇を恩で返すことを国是とし、いっさいの報復主義を排して逆に手を差し伸ばして来ている。それが容易なことではないことは、立場をかえてみれば自明である・・・」(『池田外交路線へ望む』岩波文庫『石橋湛山評論集』276ページ)。 さて、河村氏を「正しい」と弁護に立ったのが石原慎太郎・東京都知事である。24日の会見で言うことに、 「・・・あれだけの(旧日本軍の)装備、期間で40万の人を物理的に絶対殺せっこない」。 40万人が犠牲になったと、誰が言っているのだろうか。事件そのものを否定する歴史学者はいないが、犠牲者数については諸説あり、論争も繰り返されてきた。中国政府の主張は30万人である。これに対して、主に日本側から、もっと少ない数字も出されている。 石原氏は耄碌して言い間違えたというより、過大な数字を持ち出すことで「そんなに殺せっこない」という自説を際立たせたかったのだろう。被害をもたらした側の国の政治家が、こういう問題でこんなデタラメな数字の操作をやってはいけない。世界に対して恥ずかしいことである。 ※関連する過去ログとして ☆『安倍晋三氏が目指す日本の姿は醜い』(06年9月16日) ☆『TVドラマ「カーネーション」を推す』(12年2月4日)
by suiryutei
| 2012-02-26 16:18
| ニュース・評論
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