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『伝送便』誌今月号に掲載された『ハンナ・アーレント』映画評を転写します。11月14日のブログ記事にいくらか手を加えたものです。 アドルフ・アイヒマン(一九〇六-一九六二)はナチス親衛隊の幹部(最終階級は中佐)としてホロコーストに関与した。ユダヤ人の列車輸送などを指揮したのである。ナチス滅亡後アルゼンチンで逃亡生活を送っていたところをイスラエルの諜報機関が身柄を確保して同国に連行、世界が注視する中で裁判が始まる(一九六一年。判決は死刑。六二年に執行)。アーレントは自ら志願して雑誌『ニューヨーカー』の特派員となって裁判を傍聴した。ユダヤ系ドイツ人である彼女も危うくホロコーストから逃れた人。亡命先のフランスで抑留キャンプに収容され、脱走した体験を持つ。 時折挿入される実写映像での被告アイヒマンは、小心翼々とふてぶてしさが同居しているようである。自分は命令に従っただけだから、したがって虐殺に責任は無いと言うのである。責任は命令を下した者だけが負えばいいと。責任観念の放棄。ハンナはこれを「悪の凡庸さ」と呼んだ。どういうことか。誰もが彼のように行動する可能性があるということだ。 このアーレントのリポートがユダヤ人社会にハレーションを引き起こす。あの極悪人を表現するのに凡庸とは何事か、ナチスの加害性を曖昧にするつもりか、と。朝日新聞夕刊に載った佐藤忠男氏の評は、「感動的で厳しい映画」と賛辞を贈った上で、ハンナとユダヤ人社会の食い違いが「あまりくわしくは説明されていないのが、この作品の弱点」と述べる。私の場合は、映画を観る前に高橋哲哉氏がこの問題に言及した文章(『戦後責任論』講談社学術文庫に所収)を読んでいたのが理解の助けになったかもしれない。 傍聴を始めるや、ハンナはまず、この裁判に影を落とす政治性に気づく。アイヒマンの行為に直接は関係のないホロコーストの生き残り達を次から次へと証人台に立たせて、これでもかと凄惨な事実を語らせたのには、ホロコーストの被害者イスラエルというイメージを創り出し、国民統合にも利用したいというイスラエル政府の思惑があった。 つぎに、しかしまさにそれらの証言を通じて、ナチス政権下のユダヤ人社会にも、その指導的の中においてナチに協力的な部分も存在していたことが明らかになるのを彼女は見落とさない。ナチスの加害性は揺るがせにしない上で、ユダヤ人社会にあったそういった問題からも目を逸らせてはならないのではないか。これが彼女の言わんとしたことであろう。ところが、(映画に従えば)圧倒的に多くの人々は、こうした指摘は加害と被害の関係に混乱をもたらすものと受け取ったようなのだ。 これは形を変えて私たちのまわりにもある問題だろう。運動内部の欠点や弱点を指摘すれば「敵を利する気か」という言葉がすぐ飛んでくるといったような。ややこしいことに、たしかに「敵を利する」結果になる場合(動機はどうであれ)もある。真摯な問題提起と利敵行為とを見分けるのは、なるほどそんなに簡単ではない。 それにしても、なんとなく近寄りがたかった女性思想家が、観終った後いくらかは身近に感じられるようになった。映像作品の功徳である。 (東京では岩波ホールにて十二月一四日まで)
by suiryutei
| 2013-12-04 08:43
| 文学・書評
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Comments(2)
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kaguragawa at 2013-12-04 21:56
色川大吉先生が『めぐりあったひとびと~色川大吉人物論集』という本を出されたのですね。飛びつきたい本ですが、ふところが寂しい折柄、少しがまんしようと思っています。幸い?、富山の本屋さんの書棚には並んでいません。そうそう、書店で目にした横山源之助『明治富豪史』(ちくま学芸文庫)を買ったら、なんと解説は色川先生でした。なんで筑摩がいまごろこの本を復刻したのが、そんな疑問を持ちます。色川先生の解説も当然ながら?醒めたものです。
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suiryutei at 2013-12-05 07:07
kaguragawaさん、おはようございます。
たまたま昨夜、友人たちとの会合で五日市憲法の話をしたところでした。今月初めに都内で行われた「わたつみ」の集まりでも色川さんの講演があったそうです。 それにしても安倍政権の下、ひどいことになっていますね。
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