新人事制度 大阪での報告①~③
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近年、限定正社員問題でもっとも積極的に発言しているのは独立行政法人「労働政策研究・研修機構」客員研究員の濱口桂一郎氏です。初めに断っておけば氏は御用学者では決してありません。「日本ほど解雇しづらい国は無い」などという、竹中平蔵氏らがふりまくウソ八百にはまっとうな反論をしています。彼の議論の特徴は日本の雇用を「メンバーシップ型」と捉える点。たしかに日本の会社はこれまでのところ、同じメンバーである正社員を簡単には解雇しないできた。しかしそれは長時間労働や過労死を生んできた会社への無限忠誠と引き換えなのです。竹中氏らは、故意か無知か、ここには触れません。 そこで濱口氏の近年の主張は、会社への無限忠誠を生むところのメンバーシップ型雇用から脱出する途としてのジョブ型雇用の創出であり、それが限定正社員だというのです。私は、『伝送便』誌去年10月号に氏の近著『若者と労働』についての書評記事を書きました。この記事は自分のブログにもアップし、これを濱口さんのブログ(『EU労働法政策雑記帳』)にトラックバックした。すると氏は、ご自身のそのブログ一回分を使って私の記事全文を掲載してくれました(『土田宏樹さんの拙著書評』。私の書評記事の特に後半は濱口さんに対する批判になっているのですが、にもかかわらず一字一句の削除も無い。非常にフェアな態度だと感銘を受けました。研究者として誠実な方だと思う。 そう断った上で、私の氏に対する批判は、さきほども言いましたが格差の問題が軽視されていることです。30歳そこそこで年収に100万円も差をつけられたら、そしてその後その差は開く一方としたら、メンバーシップ型から脱出しようと考えるより必死でメンバーシップ型にしがみつくようにならざるをえないのではないか。去年8月のJP労組全国大会の会場前で撒いた『奔流』にも以下のように書いたのは濱口氏の議論を念頭に置いてのことです。 従来の正社員をメンバーシップ型、<限定正社員>をジョブ型と規定し、企業の構成員という身分と引き換えに長時間労働や無限の忠誠を要求される前者よりは、職務に対応した雇用契約である後者のほうが雇用の本来の在り方には近いと考える論者もいます。一理はある。世界でも珍しい<社畜>的働かされ方から、多少の賃下げを代償として日本の正社員が脱け出すための契機になるのではないかというのです。日本の雇用の在り方全体がジョブ型に転換するのであれば、また限定正社員や新一般職の賃金が提案されているような低いものでなければ、そういう見方もできるでしょう。(『奔流No.118』 2012年の労働契約法「改正」によって、5年以上有期契約を反復更新してきた有期契約労働者は希望すれば無期契約に転換できることになりました。これは、そのため5年を前にして雇止めされるんじゃないかという不安も出されているのですが、それは今はひとまず措きます。この改正労働契約法によって有期から無期に転換する人たちがジョブ型正社員(限定正社員)の核になるのではないかと濱口氏は構想しているようです。 たしかに無期に転換すれば雇用の安定という点では一歩前進で、氏はそこを重視する。けれどもそれだけでは賃金などの待遇に変化はないのです。EUのように雇用形態に関わりなく均等待遇がある程度実現していれば氏の構想で問題はないのですが、我が国の現実では正規と非正規の待遇格差が甚だしい。厚生労働省の賃金構造基本統計調査の一番新しい数字(2014年2月20日発表)によれば、正社員・正職員の月額賃金平均314.700円(年齢41.4歳、勤続12.9年)に対して正社員・正職員以外195.300円(年齢45.5歳、勤続7.1年)となっています。正規雇用100に対して非正規雇用62という比率です。この甚だしい格差がそのままメンバーシップ型正社員(従来の正社員)とジョブ型正社員(限定正社員)の間に持ち込まれてしまいます。しかもメンバーシップ型は数を減らしてジョブ型に置き換えていこうというのですから、いよいよ「狭き門」になるメンバーシップ型に「這い上がろう」とするジョブ型正社員同士の競争が激しくなるのではないか。メンバーシップ型内部でも賃金のずっと下がるジョブ型には「落とされたくない」とサバイバル競争が激しくなります。事態は、謳われている<ワーク・ライフ・バランス>とは逆の方向に進むでしょう。 おそらく濱口氏としては、待遇のことは労使自治で決めることであって、自分はあるべき枠組みを提示するだけだ、ということなのでしょう。しかし、こんにちの資本と労組官僚による“自治”では、良心的研究者による善意の処方箋も彼らに都合よくつまみ食いされるだけではないのか。 つぎに、メンバーシップ型は正社員を解雇しないというのは今日どこまで妥当でしょうか。最近のブラック企業は若者を正社員として採用しますが、とことん酷使して多数を短期間に退職へと追い込んでいます。ブラックではない著名企業でも“追い出し部屋”などを使っての<希望退職>の強要が広く行われている(希望と強要という言葉は結びつかないはずなのに、これが現実です)。JALは<整理解雇四要件>があるにかかわらず正規雇用の客室乗務員たちを指名解雇しました。 日本の企業が直接の解雇を避けるようになったのは、60年を前後する三井・三池の大闘争などを通じて「首切りは高くつく」ことを思い知らされたからです。労組のほうも、解雇を避けるのと引き換えに会社の要求に従順になりました。このいわば休戦ラインが、労資の力関係で労働側が弱くなってきたため崩されてきているのです。メンバーシップ型雇用に抱きすくめられて戦闘性を眠り込まされたことが力関係が変化してきたことの背景にはあるとは言えるでしょう。この力関係を逆の方向に変えていくことが濱口氏ならぬ私たちの課題ではないか。 (つづく)
by suiryutei
| 2014-03-01 11:08
| ニュース・評論
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Comments(2)
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