新人事制度 大阪での報告①~③
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『季刊社会評論』に下の写真のタイトルで寄稿しました。9月19日のHOWS講座で行った報告をベースにしたものです。三回ほどに分けて連載します。 日本郵政グループとは、親会社(持ち株会社)である日本郵政の下に、日本郵便・ゆうちょ銀行・かんぽ生命の三社がぶら下がるという構成(四社体制)である。このうち郵便事業に携わるのが日本郵便であって、二〇〇七年に民営化がスタートしたときは郵便事業会社と郵便局会社とに分かれていたのが二〇一二年に現在の郵政民営化法等改正法が施行されたとき統合されて一社になった。今回の株式上場では、この日本郵便は埒外だ。その株式は日本郵政が一〇〇%持ち続ける。ゆうちょとかんぽの金融二社と日本郵政の上場日は十一月四日と決まった。売却は何度かに分けて行われ、初回は三社で一兆四〇〇〇億円ほどの規模。足踏みしてきた郵政民営化は、いよいよ現実のものとなる。 民営化法成立から東証一部上場まで 郵政民営化に向け、当時の小泉純一郎総理が強烈なイニシァティブを発揮した二〇〇五年の夏はまだ記憶に鮮明ではなかろうか。同年一〇月、民営化法は成立した。法の施行(民営化スタート)は二〇〇七年一〇月からで、それまでの郵政公社は廃止され株式会社・日本郵政グループが発足する。親会社たる日本郵政の下に、ゆうちょ・かんぽ・郵便局・郵便事業の四社がぶらさがる五社体制である。 ところが二〇〇九年夏、民主党中心政権(民主・社民・国民新)への政権交代が実現するや郵政民営化の「見直し」が新政権の課題として浮上する。とりあえず同年十二月「日本郵政株式会社、郵便貯金銀行及び郵便保険会社の株式の処分の停止等に関する法律」というのが成立して株式売却は凍結された。見直しの中心になったのは、当時国民新党を率いていた亀井静香氏である。しかし、政権内の多数であった民主党議員の多くは、小泉改革への反発を背に当選しながらも実は彼らの志向するのも小泉氏とそう変わらぬ新自由主義路線。新自由主義とは距離を置く亀井氏などは、まず政権内での調整に苦労しなくてはならなかった。なんとかまとめた郵政改革三法案は、政権内の足並みの乱れを見透かした野党・自民党の焦らしもあって審議未了・廃案に。 そうした挙句に二〇一二年四月に成立したのが現在の郵政民営化法等改正法である。前年には東日本大震災が起きたから、その復興財源としても民営化を再スタートさせての郵政株売却益が見込まれた。だから、その方向は小泉民営化とそう変わらない。 ●親会社・日本郵政の株式は三分の一は政府保有に残し三分の二は処分 ●日本郵便の株は売却せず日本郵政が全株保有 ●金融二社の株式は全て処分 ・・・・これらの基本線は変わっていない。日本郵政株の三分の一は政府保有としたのは、それだけあれば株主総会において事業譲渡・合併など会社の基礎の変更になるような特別決議が出ても阻止できる、つまり会社の基本的な形は守れるから。重要な変化は、 第一に、郵便局会社と郵便事業会社が別々だったのが統合されて日本郵便一社になった。 第二に、郵便のみならず金融にもユニバーサルサービスが義務づけられた。 第三に、金融二社の全株処分に「一〇年以内」と期限がつけられていたのが外された。 第二と第三の修正が施されたことで、方向は小泉民営化と変わらないといっても、進むスピードにかなりブレーキがかかる可能性が出てきた。手紙や葉書を全国どこへでも同一料金で配達するという郵便のユニバーサルサービスは以前からのこと。第二の修正にある金融のユニバーサルサービスとは、貯金・保険の基本的サービスも郵便局で提供する責務のことだ。注意しなければならないのは、この責務が課せられているのは日本郵政と日本郵便であって、ゆうちょ・かんぽではない点だ。金融二社は株式売却が進んで日本郵政のコントロールから離れた暁、その気になれば郵便局の窓口での業務から撤退することができる。ことに収益の上がらない過疎地ではそうしたいのではないか。日本郵便に払う業務委託料が結構な額(詳しくは後述)だし、意外なことに金融二社は別に直営店も持っている(ゆうちょは支店数二三三、かんぽは八一。みずほ銀行の支店数が三八一、明治安田生命のそれが九二だから、そこそこの数)。すると、日本郵政としては金融ユニバーサルサービスを維持するには金融二社に替わる銀行と保険会社を捜してくるか金融二社の株式を完全売却はせず、ある程度コントロールが効くだけは持ち続けなくてはならないということになる。金融二社の完全処分から期限を外した第三の修正がここに繋がる。実際、新規業務の認可制が届出制に変わる五〇%株式処分までは株を売るだろうけれど、その先は停滞させるのではないか、という嫌疑を民営化推進派は抱いているようだ。このあたり亀井氏の老獪な仕掛けであったように思うが、今後、金融ユニバーサルサービスを撤廃させようとする圧力が強まっていくのではないか。ちなみに、小泉氏の目論見では、二〇〇七年の民営化スタート後、三年以内に株式上場、それから五年以内くらいで金融二社の全株処分を考えていたらしい。すると、ちょうど今年あたり完全民営化が遂行されていたことになる。 この上場の何が問題か 九月一〇日の上場承認に際して時価総額が日本郵政六・一兆円、ゆうちょ五・二兆円、かんぽ一・三兆円という計算が出た。前述したように金融二社の株式は五〇%処分までは間違いなくともその先がわからない。そこで二社の株の半分はまだ当面日本郵政に残るとして二・六+〇・六五で三・二五兆円。日本郵政には二・五兆円の不動産があるから足して五・七五兆円。赤字体質の日本郵便の企業価値はせいぜい〇・三五兆円ということで日本郵政六・一兆円に落ち着いたのではなかろうか。 この数字をどう見るか。 財務省の資料によれば、政府保有の日本郵政の株式の総額は十二兆四四八一億円である。これは、日本郵政公社を日本郵政株式会社に改組したとき(二〇〇七年)株式の会計上の価値として政府が国有財産の目録に記帳した金額で、いわゆる簿価だ。それから二〇一二年、現在の郵政民営化法等改正法が成立したときの国会での質疑で、株式の売却見込額について当時の自見庄三郎・郵政改革担当大臣から「日本郵政株式会社の連結純資産額をベースに三分の二を売却するとして機械的に算出すると六・八兆円の売却益になる」との試算が示された。この時点では日本郵政の全株式は一〇兆二〇〇〇億円と試算されていたわけだ。二〇一一年十二月成立の「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」は二〇二二年までの時限立法であり、その年までの日本郵政の株式売却益は復興財源に充てるとして、その額を四兆円と見込む。日本郵政の株式処分は三分の二までだし、また株売却はいちどきにではなく段階的に行われるので二〇二二年までに完了するとは限らない。それでも三分の二で総額六兆八〇〇〇億円になるなら二〇二二年までに四兆円くらいは捻り出せるだろうと皮算用されたのである。 これらの数字と比べると直近の六・一兆円というのは随分安売りではなかろうか。 国有財産が民営化されるときは安く売られてしまうのだ。イギリスのサッチャー政権のときも、ニュージーランドの郵政民営化のときも株の安売りだと問題になった。 「かんぽの宿」売却の場合は なぜか。二〇〇九年春に大きな騒ぎになった「かんぽの宿」のオリックスへの売却が、極端なだけにわかりやすい例である。このとき、全国六〇数か所の宿と首都圏の社宅九件を合わせて簿価総額約二四〇〇億円だったのを、日本郵政算出の純資産総額約九三億円としてオリックス不動産に約一〇九億円で売却するはずだった。呆れる話だが、売った西川義文氏(当時の日本郵政社長)も入手したオリックスの宮内義彦氏も現在でも疾しいとは思っていないらしい。企業の売買の世界ではそれで通るのだという。つまり時価は、その施設がどれだけ運用益を出しているかで算出される。「かんぽの宿」は、黒字施設が十一施設のみで財務会計上は事業全体で毎年年間四〇億の赤字を計上しているとされていた。 しかし公共施設である「かんぽの宿」は利益を増やすために経営されているのではない。利益が出れば利用料を低く抑えるなど利用者に還元すべきものだ。基本的な構造として「かんぽの宿」は利益の出ないことになっている。けれども時価はその利益から弾き出される。それが資産価値計測の国際会計基準でもある。その値で売り、また買って何が悪いのかーこれが西川氏や宮内氏の考えなのだ。この価格で一括してオリックスが買い、利潤があがるように経営の方向を変えるなら資産価値は上がる。これが民営化によって儲けようとする者らの狙いだ。 民営化によるボロ儲けは制度上可能なのである。世界でこうした投資家たちの中心にいるのはアメリカの投資銀行。[ワシントン・コンセンサス]は途上国の累積債務問題に対する取り組みにおける合意で、一〇項目のうち第八項は「国営企業の民営化」である。民営化された企業を買い取り、営利主義経営を行い、売却することによって巨額の利益を上げている。発展途上の国が対象になるだけでなく、イギリスの国鉄民営化の中心だったレールトラックは一九九四年に売却、株価の上昇局面で売り逃げされ(九九年時点で売却時よりも最高四・六倍の値がついた)、二〇〇一年に経営破綻して政府の出資を仰いだ。 なお「かんぽの宿」のその後。小泉時代の民営化法の下では「二〇一二年九月までに廃止または譲渡」とされ、これに乗じてオリックスが手を出した。さすがに批判を浴びて売却は途中で止まり、現在の民営化法等改正法では「当分のあいだ管理または運営可能」となった。最近、道後や白浜など九か所が今年八月いっぱいで営業を中止したのは、上場に向け小泉路線にまた戻ってきたということだろう。 今回の上場でも「かんぽの宿」叩き売りと同じ構造が浮かび上がっているのではないか。ゆうちょ銀行は公的金融として貯金の安全・安定を第一にしてきたからリスクを避け国債中心で運用されてきた。また累積債務一〇〇〇兆円を超す日本経済からの要請としてもゆうちょやかんぽが国債を引き受けてくれなくては困る。二〇一〇年の数字で、国債の保有者割合ではゆうちょが全体の二三・八%、かんぽは一〇・二%。この二社で全体の三分の一を占めていた。国債は利率が低い(現在一年物で〇・〇〇四%、一〇年物で〇・三六%)から金融二社の収益性は薄い。貯蓄残高がいくら膨大(二〇一五年三月末、ゆうちょ銀行の残高は一七七兆円、かんぽ生命は八三・五兆円)であろうと利益率からすれば金融二社の企業価値は安く見積もられる。 もっとも、直近の動きとしては、十五年三月末の国債の保有残高は一年前より、ゆうちょが約三〇兆円、かんぽは約四兆円減少した。一方で株式や外国債券などリスク資産への投資が増えている。運用残高に占める国債の割合は同時期、ゆうちょが六三・〇%から五一・八%、かんぽは六〇・三%から五六・六%へ低下。運用戦略を見直すという郵政「中期経営計画」に沿った動きだろう。郵貯マネーで株価を維持したいアベノミクスの意向も働いたか。 ただ、これがまた問題を含んでいる。国債での運用を減らした分、将来は民営金融会社として、ゆうちょなら企業への融資に参入したいところだ。貸出金(融資)の利回りは低下が続いているとはいえ二〇一四年度で平均一・二九%あるが、国債・株式など有価証券の利回り平均は〇・八六%にとどまる。ところが、これまで国債中心でやってきたから企業融資のノウハウを郵政は持っていない。失敗して経営破綻する可能性だってある。預入限度額一〇〇〇万円の郵便貯金を利用するのは資産家ではなく、勤労者が日々の労働から僅かずつを蓄える場所だ。そんな性格を持つゆうちょが民間金融会社として生き残るためにリスキーな運用に手を出したら、利用者にとっては低利であっても安全な貯蓄の場が失われてしまう。 (つづく)
by suiryutei
| 2015-10-27 10:28
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