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『伝送便』誌今月号に寄稿した文章です。 若いお笑い芸人の話である。結局はスポットライトを浴びることなく消えていくのだが。 漫才師の徳永が師匠と思い定めた同業の神谷は、公園で激しく泣いている赤ん坊を自分の話芸で笑わせようとするような男である。もちろん成功しない。しかし、誰が相手だろうとぶれずに自分のスタイルを貫こうとする。ひたすら芸に打ち込む。周りは引くよね。そうして次第に取り残され、「淘汰」されていく。作中、何度も繰り返される神谷と徳永の会話は、先の展開への伏線が巧みに張られているのみならず、表現するということの機微にも触れているようで、再読・三読に耐える。 徳永「だからこそ、新しい基準を超えて生まれるものもあるんじゃないですか」 神谷「名画の上から、色んな絵具足し過ぎて、もう元に戻れんようになって、途方に暮れてる状態に思えるねんな」(単行本四九ページ) 神谷は、バルザックの短編『知られざる傑作』に登場する老画家の系譜に連なるのだろうか。その老画家はパリの陋巷にあるアトリエで、画布に絵具を幾重にも幾重にも塗りたくる。常人にはそれは絵具の無意味な堆積、色彩の錯乱にしか見えない。ところが、その堆積の隙間に白い足が見える。比類なく美しい女性の足だ。それは画家が画布に最初に画いた絵なのである。ところが彼はそこに満足せず、全身全霊、完成を求めて絵具を上に上に・・・。もっとも画家は「途方に暮れてる」のではなく、その画が自分の最高傑作と信じている。バルザックは彼を半狂人として描いた。 自分の情熱に浮かされたような人物がバルザックの作品にはよく登場する。永遠の漫才師・神谷もいささかバルザック的と言えないこともない。そして「全身全霊」はときに地上的制約を超え、つまり傍からはワケガワカラナクナッテしまう。孤高の芸術家なら、それを押し通しきった先に境地が開かれる場合もあろうが、神谷が辛いのは彼の生きる世界がお笑いの世界つまり平均的多数に受けないことには忘れられてしまう世界だということだ。その哀しみがこの作品の魅力であるように私には思われた。 蛇足を一本つけたすと、風俗で働きながら、神谷が徳永と飲むからと言えば飲み代を工面してやる(神谷はその金で徳永に酒をおごり続ける)真樹は、男からすれば都合のいい女ということになるが、私にも魅力的であった。神谷と別れてずっと後年、少年の手を引く彼女を徳永が井の頭公園で見かける場面はじつに美しい。女性の読者はどう読むであろうか。
by suiryutei
| 2015-12-05 10:15
| 文学・書評
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