新人事制度 大阪での報告①~③
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『伝送便』誌10月号に寄稿した文章です。 ことし上半期の芥川賞受賞作。初めざっと読んでみたときは、今の若い人たちの生きづらさみたいなものがよく伝わってくると思った。三六歳のヒロインは独身で、一八歳のときから近所のコンビニでアルバイトしている。食い扶持を自分で稼いで、つましく暮らしている。その何が悪いのかと読者の私は思うのだが、その年齢で就職も結婚もしない、恋愛経験も無いというだけで周囲から「異物」扱いされるのである。 ヒロイン自身はそれを苦にしてはいない。むしろコンビニでの労働に生き甲斐を感じている。そこが彼女にとって唯一ピッタリくる場所なのだ。 そんな日常に妙な人物が闖入する。彼女と同世代の白羽というその男は、一言で言うと、どうしようもない奴だ。同じコンビニでアルバイトに雇われるが、自分の労働現場を底辺だと蔑み、真面目に働かない。女性客にストーカーまがいの行為を働くに及んでクビになってしまう。住むところも無い彼が、ヒロインのアパートに転がり込んでくるのだ。むしろヒロインが野良猫に対するように彼を拾ったと言っていい。現実にはなかなかありそうにない展開であるけれど、ヒロインを感情の起伏に乏しい、ちょっと変わったキャラクターに設定することで不自然さはそう感じさせない。動物を一匹飼うような感覚なのである。恋愛感情も性的関係もなく、白羽は風呂場のバスタブに座布団を敷いて寝起きする。 内実はそうであっても、男女がともあれ同棲したというだけで、ヒロインも白羽も、世間からの「異物」扱いがいくらかは和らぐらしい。まことに生きにくいことである。 今度もう一度読み返してみた。いつかは使い捨てられるかもしれないという不安も持ちながら、ヒロインはよく働く。朝九時からの勤務なのに一時間前には職場に来て、バックルーム(控室みたいなところか)で防犯カメラに映される店内の映像を観ながら朝食のパンを食べる。もし店内で何かあったら制服を着て飛び出し、レジを手伝おうという構えである。もちろん勤務時間前なのだが。 「朝、早く目が覚めてしまったときは、一駅前で降りて店まで歩くようにしている。・・・店の周りを歩くのは、コンビニ店員にとって大切な情報収集でもある。近くの飲食店が弁当を始めたら売上に影響するし、新しく工事が始まればそこで働く客が増える」。リサーチ不足にならないよう「私はこの街を、店員として、しっかりと見つめながら歩くことにしている」。 そんなふうだから、白羽に乗せられたような恰好で(彼はヒロインに寄生し続けるため彼女に就職活動をさせようとする)コンビニを辞めてからの一か月というもの、彼女は全く生気を失ってしまう。小説の結末、彼女は白羽と別れて、またコンビニという労働現場に戻っていく。 「一緒には行けません。私はコンビニ店員という動物なんです。その本能を裏切ることはできません」。 そうすることでヒロインは自分を取り戻したのであろうか。はて。労働を通じて自己を実現しているつもりが、そうではなくて吸い取られてしまったのではないか。だからコンビニから離れたが最後、彼女は無為にしか日々を過ごせない。別の登場人物の口から剥き出しの優生思想が語られることも含めて、この小説には現代の一面がたしかに切り取られている。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 上の文章の最後に「優生思想」という言葉が出てくる。本当はこの問題をもっとちゃんと述べなければならなかったのだけれど、その紙幅が無かった(言い訳)。14日のブログ(『村田紗耶香「コンビニ人間」を読む』は上記文章の下書きになったが、この記事にコメントを寄せてくださったフーテンさんへの応答の中で少し触れたので、その箇所を下にコピーしておきます。 ・・・ちょっと気になるのは、登場人物(白羽の義妹)の口から剥き出しの優生思想が語られることです(「あなたたちみたいな劣等の遺伝子は残すな」みたいな)。もちろん著者はそういう考えを肯定しているわけではないし、実際、そういうことが平気で喋られている世の中ではあります。
by suiryutei
| 2016-10-01 08:45
| 文学・書評
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