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長編小説『普天を我が手に』を、年を跨いで読み終えた。奥田英朗著、講談社。 全3巻のうち、2巻目を読み終えた時点での感想は旧臘12月1日の更新記事に書いた。 12月17日に刊行された3巻目を読み始めた途中でも、こんな更新記事で作品に触れている。 というわけで、同作の輪郭を知りたい方は上に貼り付けた二つの過去記事を覗いてください。 一つ目の過去記事で、戦後まもないころ皇室財産をめぐって竹田志郎と論争した共産党東大細胞キャップがテもなく言い負かされるのはリアリティに欠けるのではないかと指摘した。その東大細胞キャップの名は渡部であった。彼はじき共産党から離れて、卒業後は新聞記者となり、時を経るにつれ記者にとどまらず政界に深く食い込んでフィクサーのような存在になっていく。どうやら読売新聞の主筆を長く務めた渡邊恒雄に擬せられているらしい。いまネットで調べると、実在した渡邊恒雄はたしかに1926年生まれ(2024年没)。竹田志郎たち、この小説の4人の主人公と同じだ。 渡部に限らず、主要な登場人物たちは世の中を順調に上昇していく。小説の題名どおり<普天>を目指して? 彼らが壮年期を迎える3巻目では、それがちょっと白々しくなる。たとえば竹田志郎と、彼の終生のライバル矢野四郎は、<昭和>が終わる頃にはとうとう総理大臣を目指して、自民党総裁選において決選投票で相まみえる、といった案配だ。上に貼った過去記事の二つ目で <途中まで読んだ時点では、森村ノラも含めて主人公たちの歩みが順調すぎるようなところがちょっと気になる。作者は世の中全体が見えているのであろうか。> と述べておいた。その危惧どおりになった気がする。 そこまで行く途中では、戦後の大事件が次々登場して、4人のうち誰かしらはその事件に絡む。田中金脈の追及にあたっては竹田志郎は検事としてその急先鋒だったし、赤軍派による日航機ハイジャック事件に際しては矢野四郎が乗客の身代わりになって人質になる。それらの事件、田中角栄は田沼角蔵、よど号はかつら号と、すこしずつ名前を変えられているのはご愛敬だ。渡邊恒雄の渡邊が渡部となっているのと同様である。 このあたり、歌謡ショーで名曲メドレーを聴かされているような感じがしないこともない。肝心の主人公たちが躍動しなくなってしまった。
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by suiryutei
| 2026-01-13 08:08
| 文学・書評
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いま放送中のNHK朝ドラ『ばけばけ』は、ご存じのように、小泉八雲夫婦の物語である。 今朝の展開では、ヘブン先生(小泉八雲)と結婚したヒロインのおときは、新郎とともに新居に引っ越す。おときの家族(祖父と両親)も一緒だ。一家は旧士族であり、明治維新によって没落して貧乏長屋に逼塞していたのである。ヘブン先生は高給取りのお雇い外国人だから、もう生活の心配はない。 引っ越した先の広々とした武家屋敷で荷物を解き、家族はお茶を飲む。お茶請けに菓子も供される。酔流亭の聴き違いでなければ、そのとき「風雲堂の若草」だという会話があったように思う。 NHKだから実在の菓子舗の店名を出すことはない。「風雲堂」というのは、おそらく「風流堂」をもじったんでしょうね。「若草」は松江の有名な和菓子であって、風流堂だけでなく、松江の和菓子舗ならどこでも売っている。カステラを和風にしたような焼き菓子だ。そしてお茶の盛んな松江には美味しい和菓子屋がたくさんある。 2010年の4月に松江を訪ねたときのことを今朝は思い出した。 上は宿屋(宍道湖畔にある皆美館)に着いたとき供された松江の和菓子。若草は無いようだ。 下は旧武家屋敷を使った蕎麦屋。店名は〔八雲庵〕であった。ここでお昼に割り子蕎麦を食べた。 #
by suiryutei
| 2026-01-12 08:47
| 映画・TV
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年が改まって初めて都心に出向いた。 湯島から本郷に向かう途中の坂で、湯島天神の塀ごしに白梅が咲き始めているのを見た。寒に入り、寒さはこれからという頃、都内では梅が咲き出す。井伏鱒二の初期の短編『夜ふけと梅の花』に、梅が咲く季節に主人公が外套を質入れしようとして、質屋のあるじに値踏みされる場面があったと記憶する。梅の咲くころに外套を質入れしてしまっては、そのあと寒くて辛かったろうなあと思う。 上の写真は湯島天神沿いを歩いているときに。先を急いでいたので撮影の角度を考えるヒマがなく、電柱に電線も写っていて、いい出来ではないけれど。 会合を二つ続けてこなしてから、夕刻、神田へ向かった。蕎麦の〔まつや〕に行くのに決まっている。こちらは入店前に下から見上げるように撮ったもの。意外と悪くないでしょ。 隅っこの6人掛けの卓に席をとった。酔流亭と同世代くらいの3人連れの男性たちと相席である。 この人たちは長い付き合いの友人同士らしく、愉しそうに燗酒を飲み、蕎麦をたぐっている。 既視感がある。もう30年ほども前の正月、浅草にある〔並木藪〕で、やはり70歳前後くらいの男性客3人連れと相席になったことがある。30年前だから、酔流亭のほうは40代になったばかりの頃だ。 その男性たちも旧い付き合いらしく(おそらく中学か高校の同級生?)じつに愉しそうに飲んでいた。おかめ蕎麦に載っているカマボコを 「これは酒のアテになるぞ」 なんて言いながら分け合っていた。 さて昨夕の〔まつや〕のほうの3人組は、酔流亭より先にお勘定をしたので、彼らが席を立つとき 「仲がよくて、よろしいですね」 声をかけると、嬉しそうに頭を下げて出て行った。 酔流亭はカマボコをアテにして燗酒を飲み、最後は熱もり蕎麦。もり蕎麦の蕎麦とつゆを熱くしてもらったやつである。寒い晩にはぴったりだ。
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by suiryutei
| 2026-01-11 08:52
| 酒・蕎麦・食関係
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酔流亭はわりと晩婚のほうだったので、正月を独りで過ごした年が何度かあった。そんなとき、雑煮がわりによくやった餅の食べ方がある。インスタントのお吸い物を使うのである。 この正月、丸谷才一の小説『裏声で歌へ君が代』を十何年ぶりかで本棚から抜き出して読んでいたら、それと少し似た餅の食べ方を主人公がやっている場面があった。全部で20章あるうちの14章目である。 主人公は餅を三つ、オブン・トースターで焼き、 「・・彼は朱塗りの椀を二つ持って来て餅を入れ(洪の椀に一つ、自分のには二つ)、海苔茶漬けの素をかけて、上から熱い煎茶をたっぷりとついだ。・・」 文中、洪とあるのは主人公の友人で台湾出身の人。独身者の主人公の家で2人で新年会をやっていたのである。洪は食事をもうすませていたので餅は一つだけもらうと言ったのだ。 酔流亭が使った吸い物の素より、この場面での海苔茶漬けの素に熱い煎茶のほうが上等だし、きっともっと美味いに違いないが、ちょっと似ているでしょう。 さて酔流亭が丸谷才一の旧作(1982年刊)を引っ張り出したのは、去年秋の高市首相の例の「台湾有事」発言もあって、台湾のことをもっと知りたいと思ったからだ。小説に登場する洪さんは、都内で生活し、日本の国籍も持っているけれど、台湾独立運動のリーダーなのである。 いま台湾独立というと、中華人民共和国とは別に台湾で中華民国の「独立」を目指すというふうに思われがちだ。米国や日本の一部の人々が煽っているのも、そういう「独立」だ。 しかし、元々の台湾独立運動というのは、第二次大戦後に台湾に押しかけて来た中華民国に対する、その前から台湾に住んでいた人々による独立運動である。さらに、中華民国に対してだけでなく、人民共和国も含めて中華世界全体に対する、その世界のマージナル(周辺的)なところにいる人々の自己決定権を求める動きということであろうか。 中国は一つと酔流亭が思うのは、国際法は一つの国を代表する政府は一つだとしているし、すると現在の中国を代表するのは中華人民共和国であろうと考えるからである。この国を「北京政府」などと、去年11月に高市首相が言い放ったのは、やはり一国に対して無礼であるし、1972年の日中共同声明以来の精神に反すると言うほかない。中国が怒るのは当然だ。 同時に、中国は一つということを上記以外の意味でも使うことは控えなければならないかなとも思う。もっと考えていかなければならないことである。 ※『裏声で歌へ君が代』については14年前にもこんな過去記事を書いています。12年1月5日の日付だから、当時も正月に餅をたっぷり食べた後だったんだろうなあ。 ※去年11月の「台湾有事」高市発言に対しては、こう考えます。
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by suiryutei
| 2026-01-10 05:13
| 文学・書評
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昨日の朝刊に掲載された寄稿に共感したので、その紙面の写真を貼り付けておきたい。 論説はデジタル化されているが、例によって<有料記事>である。酔流亭は朝日購読者なので紙面を切り抜いておいた。 寄稿者の真藤順丈氏は『宝島』という小説の作者。同作は2019年の直木賞受賞作であって、去年映画化もされた。酔流亭は映画は観ていないが、原作は去年暮れ、友人に貸してもらって読んだ。その友人は酔流亭よりほんの少し年上で、首都圏在。辺野古基地反対運動に連帯して地元で活動を続け、ときには沖縄を訪れて大浦湾でカヌーを漕いでの抗議行動にも参加する。『宝島』も戦後の沖縄を舞台にした物語である。 友人もそうであったし(だから本を貸してくれたのだ)、酔流亭も『宝島』には心をゆさぶられた。その感想をこのブログにでも書き残しておくべきだったのだけれど、読み終えてすぐ返してしまった。いま手元にない本について、記憶であれこれ書くのは控えよう。ただ、いい読後感であっいたということだけ記しておきたい。 昨日の朝刊寄稿についても、それについて何か書くより、読んでおいて損はないですよ、とだけ言っておきたい。朝日を購読していない方、有料会員になってまで読むのはね、という方は、時間があるときお近くの図書館に行ってでも。 ※『宝島』について感想は書いていないが、先月29日の更新記事で小川哲氏原作のTVドラマ『火星の女王』について書いたとき僅かに触れてある。 #
by suiryutei
| 2026-01-09 08:27
| ニュース・評論
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