新人事制度 大阪での報告①~③
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松川事件の被告として有名な佐藤一さんが17日に亡くなったという。心筋梗塞のため。87歳。 松川事件とは、1949年8月に福島県松川町で起きた列車の脱線転覆事故を労働組合の活動家や共産党員の仕業としようとする冤罪事件である。佐藤さんは一審で死刑を宣告されたが、アリバイを示すメモを検事が持っていたことがわかり63年に最高裁で無罪が確定した(被告たち全員が無罪)。 佐藤さんのおそらく最後の著書であろう『松本清張の陰謀』という本の書評めいたものを、酔流亭は3年ほど前にブログ及び『伝送便』誌に書いたことがある。本に添えられている読者カードにも一行だけ感想を書いて出版元(草思社)に送った。そのせいだろう、後日、佐藤さんから長文の手紙を頂いた。 『伝送便』誌06年4月号に載せた書評を以下に転写し、故人のご冥福を祈る。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 本の紹介 『松本清張の陰謀』 佐藤一 著(草思社 2006年2月刊行) 著者は松川事件の元被告。一度は死刑判決を受けたという特異な体験を持つ。松川事件とは、1949年8月、福島県松川で起きた列車転覆事故である。乗務員3人が死んだ。当初、これは当時最強を誇った国労および東芝労組の戦闘的分子(ほとんどが共産党員)による犯行だとされ、東芝労組の活動家だった著者も獄につながれたのである。それが冤罪であったことは今日では確定している(1963年に完全無罪判決)。 その1949年は国鉄をめぐって奇怪な事件が相次いだ。松川事件が起きる前月の7月には国鉄の下山総裁が死体で発見され、中央線三鷹駅でも列車が暴走した。これらは全て共産党による赤色テロだとキャンペーンされて国鉄労組は戦闘力を殺がれた。国鉄10万人の人員整理がさしたる抵抗を受けずに進行した一因である。小説家の故・松本清張はこれらをアメリカ占領軍による謀略であると推理し、下山総裁も占領軍によって殺害されたと主張する(『日本の黒い霧』1960年)。 さて本書の著者・佐藤一氏は、松川事件で無罪判決を勝ち取った後、清張氏および共産党に請われて下山事件研究会の事務局長となる。しかし、氏は実証的調査をすすめた結果、下山総裁は自殺であったことを確信するにいたる。真相がいずれかは永久の謎かもしれぬが、占領期研究の第一人者、歴史家の竹前栄治氏によれば「現在は佐藤説が市民権を得つつあります」(竹前栄治『占領研究40年』(2004年)。 本書は、下山事件にとどまらず、清張『日本の黒い霧』に対する全面批判の書である。その辛辣さに、あるいは反発を覚える向きもあるだろう。読後感をブログ上でやりとりしたとき、そういう主旨のコメントも寄せられた。下山事件研究会事務局長時代、著者が提出した報告が他殺説に不利だというので握りつぶされた経緯もあったようだから、そのあたりの感情がときに筆先から迸ったこともあるかもしれない。しかし、それをもって私怨としたら、浅い理解である。清張個人をつらぬいて、我が国の反体制派の運動・思考法が持つ通弊を本書はたしかに抉っているのだ。 たとえば『黒い霧』に収められている「革命を売る男・伊藤律」という一篇。 戦後の一時期、共産党の幹部として羽振りが良かった伊藤律(レッドパージで潜行した後、中国に渡り、晩年に帰国)の評判はたしかに芳しくない。同時に、彼が権力と通じたスパイというわけではなかったことも今日の研究ではほぼ明らかにされている。彼が犯した指導上の誤りは、当時の党の弱さ(「九月革命説」に代表されるような情勢分析の杜撰・戦略戦術の右往左往など)に規定されたものである。ところが、清張のように「律=スパイ」説に立てば、党の混乱は主にスパイの工作によって引き起こされたということになる。そうなると謀略の犠牲者という面ばかり強調されて、誤りを自らの責任として見つめる視角は弱くならざるをえない。共産党のことだけを言っているのではない。運動がうまくいかぬ原因を「敵の策動」にばかりもとめて自省を欠く発想は私たちのあいだに根深いのだ。 同意できなかった点も書きつけておこう。 朝鮮戦争は北が先に侵攻したことは今日では明らかになっている。下山・三鷹・松川事件は朝鮮戦争開始に向けて仕組まれたアメリカの謀略であったとするのは松本清張の推理小説的思い込みにすぎないという著者の主張は説得的だ。しかし、北緯38度線が半島の人々にとっては外からおしつけられたものであり、分断はさかのぼれば日本による植民地支配に起因するなら、当時の心ある人々が北に同情的かつ反米的であったのは理解できるのである。これは、金日成やスターリンの武力統一路線が冒険主義であり誤りであったというのとは別の話だ。コミンテルン史観と断罪してしまうのは、いささか酷ではなかろうか。 とはいえ、権力に屈せず、革新陣営内の同調主義にも流されずに戦後史を生き抜いた著者の痛言にまずは謙虚に耳を傾けたい。効く薬は口に苦いのである。
by suiryutei
| 2009-06-23 14:28
| ニュース・評論
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Comments(8)
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下山・三鷹・松川事件・・・
今はやりの「20世紀少年」みたいですよね。 まぁ「20世紀少年」が「よくある話」なのでしようが(-"-;
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きとらさん、こんにちは。お変わりなかったですか。
下山総裁の死体の「死後轢断」というのは、東大法医学の古畑鑑定によるものです。死後に列車に轢かれたとしたら、どこかで殺されて線路に運ばれたことになる。他殺説の重要な根拠です。しかし、これには専門家の間から疑問も出ているようなのです。確定できないが「生体轢断」の可能性もあるようです。 ![]()
「20世紀少年」のコワさは
大衆がコントロールされて事実がねじ曲げられ 簡単に「正義」が世論で定義づけられてしまうところ。 主人公のケンヂは「ともだち」のプロパガンダによって 「ともだち」自身による殺戮の犯人(テロリスト)にされます。 まるで当時の国労のように・・・ 関東大震災の時にも煮たようなことがありましたよね。 いや、戦前はそんなことばかりだったかも。 村上龍も時々そんなモチーフの小説を書いていますが 島国日本の歴史はそれの繰り返しだったのかも知れません。 ![]()
酔流亭日乗さん こんにちは はじめまして 大阪の港のシクロオヤジです。すごく内容に感動したので 佐藤一さんの本の紹介の部分無断でコピーして私のブログに貼り付けました。以前にもグローバル恐慌の本の感想をコピペしました。ある党派を自認しているブログに勝手にコピペされると困る 削除してくれといわれるのであれば従います。非礼おわびします。
シクロオヤジさん、おはようございます。
この書評は、私にとって大事な方との出会いから生まれたものなので、三年前に書いたものですが思い出深い文章です。目に留めていただき、うれしいです。 思想信条は夫々ですので、私は党派の運動にはかかわりませんが、コピペはご自由に。
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