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出だしはとてもいい。ヒロインが乗っていたタクシーのFMラジオから流れるヤナーチェックの曲『シンフォニエッタ』。小説が発売されるや、このチェコの作曲家のCDまで売れ出したというのもわかるような気がする。酔流亭はヤナーチェックの名だけは知っていたが『シンフォニエッタ』がいかなる曲であるかはわからない。 しかし、そのヒロイン青豆の置かれた状況設定はどうかと思う。DV(ドメスティック・バイオレンス)に義憤を抱く裕福な老婦人に送り込まれて、そのDV男を刺殺する殺し屋。これではまるで必殺仕掛人ではないか。 設定が陳腐だから、小説で語られる事件や登場するカルト集団も、それらがつい最近実際に起きた事件をモデルにしているにもかかわらず、嘘くさくて薄っぺらく見えてしまう。さしもの村上春樹も、大きくなりすぎて、かつてのみずみずしさが損なわれてしまったのであろうか。 それで、どうもこれは・・・と思いながら、しかし春樹の筆力に引っぱられて読みすすんでいくうち、ちょっと印象が変わってくるのが後半である。リトル・ピープルが登場してからだ。このリトル・ピープルなるものをどう理解するかによって、この小説の評価は分かれると思う。 この小説の題名がジョージ・オーウェルの『1984年』から意識されたものであり、その『1984年』に登場するビック・ブラザーに対比されるものとしてリトル・ピープルはあると、これまでに目にした新聞や雑誌の書評では語られている。ところが酔流亭は肝心のオーウェルのその小説を読んでいない。それでズルをして今ウィキペディアで粗筋だけ調べた。ビック・ブラザーとはスターリンのことらしい。 ここで思い出すのは林達夫の随筆『旅順陥落』である。この随筆も、オーウェルの小説と同じころ書かれたと思う。 第二次大戦の末期、ソ連が対日宣戦布告したとき、スターリンは日露戦争の仇を討てとばかり人びとの報復意識と民族主義を煽った形跡がある。日露戦争での旅順の陥落を、ロシア帝政を打倒するうえでの有利な状況として歓迎したレーニンと、それはいかにかけ離れた態度であったか。そう指摘した上で林は筆をすすめる。 「・・・それはともかくとして、対日戦争を日露戦争の復讐と雪辱に見立てることが、少なくともマルクス・レーニン主義の立場からすれば、これも阿呆のような『ブルジョア的』『帝政的』な子守唄の一種にすぎないことも確かであろう。・・・だが、これを清濁併せ呑む共産主義者の政治的逞しさの結果と見るか、同じく清濁併せ呑むソヴェト人民の政治的痴鈍さの結果と見るかは自ずから別問題であろう。恐らくそれはその両者の馴れ合いから来た特殊なスラヴ的場合ででもあろうか。ただはっきり言い得られることは、仮にソヴェト人民のほうでどうしてもこの政治的子守唄を必要としていたのだとすると、彼らはあの精力的なマルクス・レーニン主義的啓蒙を以ってしてもなかなか犯し難い帝政時代的庶民の風格を内々一面において持ちつづけていたということになる」。 「特殊なスラヴ的場合」「帝政時代的」と限定はできない。民衆が独裁権力を呼び込む場合は往々にして起こるのである。ビック・ブラザーとリトル・ピープルは、そのように「馴れ合い」、補い合っているのだろう。 小説の読み方としては酔流亭のような解釈は強引に過ぎるかもしれないが。 ※関連する過去ログとして ☆『エルサレルの村上春樹』(09年2月17日)
by suiryutei
| 2009-07-28 17:33
| 文学・書評
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Comments(4)
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ナー二、示唆されれば充分に方向性は理解できます!
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高麗山さん、おはようございます。
ボンヤリと思ったことですが、そのボンヤリが消えないうちに文章にしておこうと思って・・・。 終盤、また別のタクシーの中でミシェル・ルグランの名が出たり、このあたりの細部も面白いです。 ![]()
リトル・ピープルについては、いまいち釈然としないです。
あれには続きがあって、それを読まないと何とも言えないんじゃないかという気がするし、もし続きがなくてあれでおしまいならずいぶんな作りだなぁと思うんですが。 それから、『1984年』の筋をウィキペディアでお読みになったとのこと…!(笑) ちょっと聞き捨てならないです。ぜひ作品をお読みください。村上作品の方はどうかわからないけど、オーウェルのはすごくいい作品だと思います。タイムリーに新訳も出たみたいですし。
雪見さん、こんばんは。
私ももうひとつ釈然としなくて、だからブログに書いたことは全然見当違いかもしれません。春樹自身もよくわかってないんじゃないかな。 10数年前に観て、とても感銘した映画『大地と自由』(ケン・ローチ監督)は、ジョージ・オーウェルの『カタロニア賛歌』が原作になっているとも聞いているし、オーウェルは読まなきゃいかんと思いつつ、まだ何も読んでいません。これをいい機会に、夏のあいだに読んでみますか。
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