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『パンとペン』(黒岩比佐子 講談社)について、『伝送便』誌にも記事を書きましたので転写します。 我が国社会主義運動の父と言うべき堺利彦(1870―1933)は、若い頃ずいぶん放蕩をしたらしい。酒を飲み遊郭にも通って、せっかく入学した第一高等中学校(のちの一高)を学費滞納で除名されてしまう。ベーベルの婦人論をいちはやく紹介するなど婦人解放運動のさきがけとも評される堺の、これは言行不一致ではないかと謗るとしたら野暮である。20代なかば、両親の相次ぐ死を機に放蕩はピタリとやめたし、二度の結婚(先妻とは死別)を通じて家庭生活は濃やかなものであった。枯川と号して小説も書いたが、どの作品も女性の心理描写に優れ、恵まれない境遇に生きる庶民への共感に満ちているという。紅灯狭斜の巷での若き日々は、堺にあっては人間を見る眼を深く、優しいものにするのに役立ったように思われる。世の中が戦争へと向かっていくのでなかったら、社会運動史にではなく日本文学史に自然主義の作家として名を残していたかもしれない。 だが日露開戦が迫っていた。看板記者としてペンをふるっていた「萬朝報」が従来の非戦論を捨て開戦支持に転ずるや、内村鑑三、幸徳秋水とともに堺利彦は萬朝報社を去り、幸徳とともに「平民新聞」を発刊、非戦論を唱える。社会主義者としての彼の歩みはここから始まった。 数年後の1910年、大逆事件勃発。「天皇を爆殺しようと企んだ」とするデッチあげ事件である。幸徳秋水以下12名が死刑に。堺がこれに連座しなかったのは、その二年前の赤旗事件で検挙されてすでに獄にいたから。 出獄してからの堺の行動は感動的だ。刑死した者たちの家族を慰問する旅に出るのである。京都、岡山、熊本、高知、和歌山などをまわる一月余。それは辛い旅であったろうし、危険なことでもあった。天皇を殺そうとしたと決め付けられた者たちの側に寄り添うことを明らかにする行動なのだから。そして売文社(1910-1919)が旗揚げされた。去年刊行された『パンとペン』(黒岩比佐子 講談社)によって、その売文社の闘いがどのようなものであったかを知ることができる。 ペンには二つの役割がある。ひとつは生活の資つまりパンを得るためのもの。もうひとつは、食うこととは別に自分の考えを人びとに伝えるための。売文社のペンは、まず前者の役目を果たさなければならない。翻訳はもちろん、別れた男に女が手切れ金を要求する手紙の代筆もやれば、生まれた子どもの名をつけてくれというものまで。ペンから生み出せるものなら何でもやった。大逆事件のあと逼塞する同志たちに、そうやってパンのための仕事をまわしたのである。しかし、そのことはペンの持つもうひとつの役目を封印することを意味しない。売文稼業のかたわら、反戦と社会主義の旗を掲げて降ろさず、身を寄せてくる者は拒まず去る者を追わず、遠近の同志をつなぎ励まして、堺利彦は「冬の時代」の後退戦をよくしのいだ。その姿を生き生きと描いて、『パンとペン』の著者・黒岩比佐子さんは同書刊行から一月後の去年11月に急逝したことを付記しておく。 ※関連する過去ログとして ☆『パンとペン 社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い』(10年1月14日)
by suiryutei
| 2011-02-05 19:42
| 文学・書評
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Comments(2)
堺の作家修業時代のことについてもふれていただいて、有り難うございます(私がお礼をいうのも変ですが)。
黒岩さんの本や、堺の自伝を読んだとき、感じたのは堺利彦の作家としての修業時期が、徳田秋声のそれと重なっているということでした。それは単に時代が時期が重なっているということではなく、大阪時代は人的にも微妙な位置にあるということと、尾崎紅葉との関係――西洋文学の翻案という点――においてもです。 『図書』の2月号に、田中尚伸さんが大逆事件の検察側の関係者の遺聞を紹介していますね。
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Commented
by
suiryutei at 2011-02-06 20:37
かぐら川さん、こんばんは。
昨日、関わっている市民サークルで大逆事件をテーマに学習会がありました。『パンとペン』のことを発言し「富山にいるブログ仲間」として、かぐら川さんのことも話しました。午後、くしゃみをされませんでしたか?
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