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出入りしているHOWS(本郷文化フォーラムワーカーズスクール)には「日本の短編小説を読む」という講座もある。立野正裕・明治大学文学部教授をチューターとした読書会である。日ごろ文学とはおよそ無縁な日々を過ごしている酔流亭はこれまで顔を出したことはなかったのだが、11月の講座で取り上げるのが石川淳の『マルスの歌』だと聞いて、初参加した。幸い当日は昼間の勤務。開催時間の夜は時間が空いていた。 参加者は10人ほどの男女。年齢も様々。まず立野教授が10数分間くらい、作者と作品について簡単な解説をして、すぐ自由討論に。いい進め方だと思った。市民サークルの読書会では、どうかすると報告者がエンエンとしゃべることがある。それで時間の大半を費やしてしまって、いざ討論の段には、そのころにはこちらは聴き疲れて口を開く意欲を失っていたり、あるいは挙手しても残り時間が気になって言いたいことの半分も言わなかったり。そんな経験がある。 この講座のチューターは、参加者の思うところを充分に引き出そうとしてくれているのである。それで酔流亭、調子に乗って結構しゃべりました。石川淳は好きな文士なんだ。そして好きな作家やその作品について語ることほど愉しいことは滅多にないのだ。初めに書いたように、酔流亭はそんな機会にあまり恵まれない生活を送ってきたのだが。 さて『マルスの歌』は石川淳(1899-1987)が1938年に雑誌『文学界』に発表した短編。表題は、何か特定の歌を指しているというより、当年わがくにを覆っていた社会風潮そのものを暗示していよう。それへの強い拒否が貫かれている。 たとえば主人公は街に溢れる流行歌『マルスの歌』に耐え切れず、映画館に飛び込む。画面には「水辺に楊柳のある村落のけしき」が映し出されている。中国大陸である。日本の兵隊が笑顔で土地の子どもの頭をなでている。一見すると平和そうな風景だ。しかしー。 「だが、郷土の山河と他国人の笑のうちにあって、この二人の子供の顔には、涙とか憂鬱とか虚無感とか、絵に写せば写せるような御愛嬌な表情はなかった。かれらは切羽つまった沈黙の中で率直にNO!とさけんでいた」。 酔流亭はいま時間が無いので短い引用しかしないが、加藤周一は大著『日本文学史序説』において大きく誌面を割いてこの箇所を紹介し、こう述べる。「小説家の眼光恐るべし。これは日本の小説家が日中戦争について書いたもっとも鋭く、もっとも正確な文章であったろう」。 この評価に酔流亭も異存はない。 会の後半で、立野教授が「この小説は反戦小説ではない」とおっしゃられたことから、ちょっと議論になった。あの戦争に対する作者の反対の意思ははっきりしていると酔流亭には思われるからだ。 しかし、教授の言わんとしたのは、反戦のために書かれた、それだけが主題の作品ではない、ということであった。主題は、大勢に順応することへの拒絶。終盤に出てくる「思想」という言葉をどう解釈するかが重要だろう。流されることのない眼、自分をいかに持つかだ。 この小説を初めて読んだときのことを思い出して腑に落ちた。20代の終わり、労組の地区本部青年部でも役員をやっていた頃である。労組の路線はどんどんおかしなものになっていく。労組というのは分会→支部→地区という形で段々「上部機関」になっていくわけだが(その上が地本→中央本部)、青年部といえ地区本部あたりになると運動の流れに異論をいいづらい雰囲気になってくる。その中に身を置いていることの違和感・孤立感。それは流行歌『マルスの歌』への嫌悪と通じるものがあったのではないか。酔流亭が石川淳に惹かれた一番の理由はおそらくここにあった。 ※関連する過去ログとして ☆『マルスの歌』(03年12月23日) ☆『石川淳の「マルスの歌」と加藤周一さん』(05年11月24日)
by suiryutei
| 2011-11-25 14:23
| 文学・書評
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Comments(5)
![]() ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
鍵コメさん、こんばんは。
ご好意に感謝! たのしみにして待っております。
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鍵コメさん、届きました。もうひとつ、視たくて、でもまだ視ていなかったものも。
ありがとうございます。 ![]() ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
鍵コメさん、またまたありがとうございます。
ケン・ローチのあの映画はよかったですね。自己愛(自己利益)と他者や社会との関わりについては昨日の朝日新聞土曜版で上野千鶴子さんがなかなかいいことを書いていました。
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