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前にも書いたけれど、3月に放送の終わったNHK朝ドラ『カーネーション』を、今も時々DVDで視ている。最近視たのは、ヒロイン糸子の幼友達、勘助の二度目の召集と死の場面である。去年暮れの放送。彼は1930年代にいちど兵隊にとられて中国大陸へ行くのだが、二年後除隊したときは精神を病んで別人のようになって岸和田へ帰ってくる。 勘助が「心を失くしてしまった」理由がドラマの中で明かされるのは、ずっとのちになってから。しかし、その前に薄々気づいた視聴者はいたはずである。中国大陸で日本軍が行った非道・残虐行為に、おそらく上官の命令を拒むことができず厭々ながらも彼は加わってしまったのだ。 その勘助がまた召集される。戦場に出たところで使い物にならないだろう廃人を狩り出すところまで戦況は悪化してきたのだ。空襲が始まってヒロインたちの頭上に焼夷弾が降り注ぐようになるのは、そのあとすぐである。 さて出征の日、勘助は糸子の洋裁店の近くまで来て、窓から糸子の姿を見る。糸子は、例によって巻き舌でポンポンと縫い子たちを叱りつけている。この場面が美しいし、切ない。小さいときから男まさりの糸子と、対照的に気が弱くておとなしい勘助。彼が糸子を慕う想いは、愛とか恋とは違うだろう。紳士服の仕立職人と糸子が結婚するとき彼はべつに嫉妬の感情は表わさないのだから。もっと近い存在として彼女が慕わしいのだ。 しかし、今生の別れとなるに違いない日に、勘助は糸子の前に出ることができないのである。前の出征のとき大陸でやったことを思うと自分には彼女と会う資格がない・・・。 そして彼は一月もせずして死んでしまう。 この場面を視ていて、広島で被爆した詩人・栗原貞子さんの『ヒロシマというとき』という詩を酔流亭は思い出した。 ・・・・・・・・・・・・・・・・ <ヒロシマ>といえば <ああ、ヒロシマ>とやさしくは 返ってこない アジアの国々の死者たちや無告の民が いっせいに犯されたものの怒りを 噴き出すのだ (略) <ヒロシマ>といえば <ああ、ヒロシマ>と やさしいこたえがかえって来るためには わたしたちは わたしたちの汚れた手を きよめねばならない TVというのは、基本的には体制側に都合のよい考え方を受け手に浸透させようとするものである。そのことはおさえておかなくてはならない。全体には最近いよいよひどくなっていると思う。ただ、そうした中にあっても、良心的な作り手が自分の思いを伝えようとする努力がある。『カーネーション』における勘助のエピソードはその優れたひとつとして記憶しておきたい。 ※関連する過去ログとして ☆『TV「カーネーション」を推す』(12年2月4日) ☆『河村、石原氏と「カーネーション」』(12年4月4日)
by suiryutei
| 2012-05-26 08:25
| 映画・TV
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