新人事制度 大阪での報告①~③
最新の記事
タグ
労働(124)
辺野古(46) 郵便局(43) 文学(31) コロナウイルス(31) 韓国(19) 朝鮮半島(12) 映画(11) NHK朝ドラ(10) ひよっこ(9) 大西巨人(9) なつぞら(8) 神田まつや(8) 労働者文学(8) 神聖喜劇(7) 関西生コン労組(6) 狭山事件(6) ブレイディみかこ(6) ケン・ローチ(6) 蕪水亭(6) 最新のコメント
記事ランキング
カテゴリ
以前の記事
2024年 03月 2024年 02月 2024年 01月 2023年 12月 2023年 11月 2023年 10月 2023年 09月 2023年 08月 2023年 07月 2023年 06月 more... ブログジャンル
画像一覧
検索
|
近所の医者に胃の薬をもらいに行った。医院の待合室で待っている間、中野重治の小説『春さきの風』を読みかえしていた。ゆっくり読んでも20分もかからない短編だ。 「三月十五日につかまった人々のなかに一人の赤ん坊がいた」と書き出される。1928年3月15日に行われた日本共産党とその支持者に対する一斉検挙のとき、母親と一緒に留置場に放り込まれた生後8ヶ月の赤ちゃんが留置場で突然容態が悪くなって死んでしまう。そのことが描かれている。警察での母子に対する冷たい仕打ち。我が子を亡くしたばかりの母親は取り調べのときの態度が生意気だというので、刑事に平手打ちをくう。 極めて優れた作品である。「・・・私は田舎の高等学校生徒として最初に『春さきの風』を読んだときの感動を、いまも忘れることができない。『わたしらは侮辱の中に生きています』という結びの一句を読んだときの身のひきしまるような感動を、私はいまでもありありと思い浮かべることができる・・・」というのは平野謙の評だが、酔流亭もそれに深く同感する。 ところで、戦前の日本共産党について考えるとき、二つの視点が併せて必要であろうかと思う。ひとつは、この作品に描かれたような彼らの犠牲的で献身的な抵抗の歴史だ。同党はそれを誇ってよいと思う。しかし同時に、その抵抗が国家権力に対してもっとも有効な形で組まれたか否やを検証してみる視点もまた無ければならぬ。 この点では、共産党は誤りも多かったのではないかと酔流亭などは思っている。同じファシズム支配下でイタリアやフランスのコミュニュストたちが行ったような大衆的な抵抗運動を日本の左翼は取り組むことができなかった。もちろんヨーロッパと日本のそれ以前からの労働運動の強弱などを抜きにして論じては超越的批判になってしまうけれど、それにしても、である。 戦後、このことを鋭く指摘したのは、たとえば丸山真男だが(『戦争責任論の盲点』1956年)、これに対する同党の反応は「命がけで闘ってきた我々を批判するのか」といった感情的反発以上ではなかったように思う。 あのとき丸山真男が党の外から投げかけた問題意識と似たものを党内にいて持ち続けていたのが『春さきの風』の著者・中野重治であった。1964年に、最高幹部だった志賀義雄らが党の方針に反したとして除名されたとき、党中央委員としてその除名に反対したことで中野も党を追われたのは、何か暗合的である。 ・・・・日記再開初日だというのに、硬い内容になった。しかし、3月になり、春さきの風が吹き出す頃、酔流亭は毎年この短編小説を読み返して、平野謙の言う「身のひきしまるような感動」を思い出すのである。
by suiryutei
| 2005-03-16 12:31
| 文学・書評
|
Comments(0)
|
ファン申請 |
||