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新人事制度 大阪での報告①~③
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今年3月、都内で開催された<日本郵政の株式上場を問う>というシンポジウムは郵産労ユニオンなどが中心になってのもの。そこでの報告者の一人、牛久保秀樹弁護士(郵政事業研究会代表)は、上場は日本郵政だけとすることを提言しました。いま私が述べたような資本主義経済の価値基準に照らしてさえ不明朗な「親子同時上場」に的を絞っての上場反対論です。内心ではそもそも民営化に反対なのでしょうが、日本郵政の売却益は震災復興財源にまわるということもあって「全て反対」とは今日なかなか言いにくい。せめてこれだけは・・・というところでしょう。戦争法案をめぐって、本当は個別的自衛権だって反対だけど今は集団的自衛権反対で足並みを揃えようという論理(心理?)にちょっと似ているような気もする。もちろん「労資一体で上場成功を」というJP労組本部よりはずっとマトモです。ただ、牛久保弁護士の『提言』には労働現場への目配りが弱いように思う。東証一部上場は企業にとっては襟を正すときですから、多くが非正規雇用の低待遇に起因する裁判闘争(労働契約法20条裁判、65歳雇止め裁判など郵産労ユニオンは現在全国で20以上の争議を抱えています)を解決する上での好機と前向きに捉えるのは大事な視点。JP労組がこうした取り組みを全くしていないことには同労組の組合員である私は恥ずかしい思いがある。その上で言いたいのは、上場そのもの、民営化そのものが労働現場に何をもたらすかをもっと強く打ち出すべきではないか、ということです。 2012年の春、当時の斉藤次郎・日本郵政社長が、郵便労働者の賃金は同業他社のそれと比べて二割がた高いと言ったことがあります。同業といったって郵便については日本郵便がほぼ独占しているのですから斉藤氏は物流他社(ヤマトとか佐川とか日通)を念頭にそう言ったのでしょう。調べてみました。二割というのはふっかけ過ぎです。でも、たしかに一割くらい日本郵便のほうがよかった。旧郵政ユニオンの調査によれば2008年時点で日通の40.4歳、勤続17.2年の社員の年収は597万円。郵政の42.1歳、勤続20.2年は650万円です。その後2010年のゆうパック統合失敗による大赤字で一時金の削減(年間4.4ヵ月→3.0ヵ月→3.8ヵ月)が行われたから、げんざい差はもっと縮まっているかな。 でも、この比較は正規雇用に限っての話です。郵便の非正規雇用は地域の最低賃金を10円単位で切り上げた上に20円加算したのが下限。ことし東京の最賃は907円になったから、東京の郵便局では910円に切り上げた上で20円足して930円が下限ということになります。そのあと半年ごとの「スキル評価」で少しは上がっていく。しかし私のいる局で内務の場合1100円台で頭打ちになってそれ以上には行かない。正規雇用と同じ勤務日数で1日8時間働いたとして推計年収219万円という数字が出ていますが、実際には非正規は週30時間や35時間に抑えられているから年収は200万円に行かない人が多い。 さて日本郵政が上場したら株価を上げていくための成長戦略は何になっていくのでしょうか。日本郵政に残るのはいずれ日本郵便だけになってしまう(筈)のですから、日本郵便の成長戦略ということです。意外に稼げそうなのは不動産業らしい。日本郵政グループの保有資産は全国で約2.5兆円(土地1.4兆円、建物1.1兆円)、そのうち日本郵便は2.1兆円を保有しているとのこと。すこし前まで中央郵便局は駅前の一等地にありました。今は輸送手段が鉄道から自動車に替わってきたから新しく立つ拠点局は駅前から離れて高速道の出入り口近くです。使わなくなった昔の中央郵便局を活用できるのです(例えば東京中郵→JPタワー、KITTE)。「中期経営計画」では、不動産の活用により年間200億円規模の営業収益を目指すとしています。しかし不動産業はやはり本業ではなく、本業のいわば「生命維持装置」という役割でしょう。 本業では郵便から物流業に力点を移していくことです。今年、オーストラリアの物流大手トール社を6200億円かけて買収したのも、物流に力を入れるという成長戦略をアピールするためでした。金融二社の株式売却益は日本郵政の懐に入るので、これを原資に内外の物流企業のM&A(合併・買収)は今後も試みられるでしょう。さて、はたいた金額ほどの見返りがあるかどうか。 信書は減っていく(2013年度の185億7.100万通というのはピーク時の2001年度267億2.500万通より29.4%も減)のだから、物流重視の方向は動かない。郵便は減っても物流が増えているので、私たち現場の労働者が扱う総物数は3割も減っているわけではありません。どころか、2015年3月期中間決算で、ゆうパック2億3.000万個(半年間)というのは前中間期と比べて14.4%も増えている。ゆうメールも15億9.100個で5.7%増です。 郵便と物流の違いは何かというと、信書を運ぶのが郵便なのに対して物流は荷物を扱う。だから、ゆうパックは前は郵便小包と呼んでいたから紛らわしいのだけれども郵便ではなく物流です。紛らわしいといえば、ゆうメールは見た目は定型外郵便物と見分けのつかないものが多い。が、これも荷物=物流に区分されます(だから中に手紙を入れることはできません)。ゆうメールが登場する前、手紙ではなく印刷物を送るときでも定型外郵便を使っていた。すると定型外郵便は150gまで205円のところ、ゆうメールなら180円で引き受けます。重量が増すほどこの差は開き、2㎏以内の定型外郵便870円に対し、同重量のゆうメールは460円です。去年6月から始まったゆうパケットは法人向けに1㎏以下の荷物を扱いますが、運賃は「お客様ごとに個別に設定」つまり定価がありません。郵便から物流へとシフトしていくこと自体がダンピングなのです。 物流業は、たしかに郵便とは違って需要がまだ伸びている成長分野。2015年3月期の宅配便個数は36億個強、メール便は54億個強。2010年~2014年の5年間の成長率は4.0%でした。同時に激しいダンピング競争が行われている世界でもあります。ヤマト運輸では2000年代初頭には1個あたり750円近かった運賃単価が、底となる14年春には500円台後半まで、佐川急便では2000年代初頭に1000円近かったのが、底になる13年春には500円を切るところまで下がっています。これは結局、働く者の労働条件にしわ寄せされます。さすがに下げ過ぎたと「運賃適正化」に動きかけたところに日本郵便が採算度外視で攻勢をかけて物数を増やしているのが直近の状況なのです。「中期経営計画」では14年の4億8.000万個を17年には6億8000万個にする目標を立てています。しかし現在宅配業界ではシェア11.9%の日本郵便が46.3%のクロネコヤマト、33.9%の佐川に追い付き追い抜くには結局どれだけコストを下げるか、つまり人減らしと賃金切り下げ、個々の労働者の労働強化しかありません。すでに2014年度、労災としての過労死が一番多かった業界は運輸・郵便業で92件でした。アベノミクスの成長戦略が結局は労働法制を改悪して働く者をもっと搾り取るだけなのと同じ構図です。 では、どうやって賃金を削るか。去年の9月、このHOWS講座で「限定正社員」問題を取り上げたとき紹介した数字を引用します。日本郵便における、ここ数年の労働者数です。 2009年 正規208.357人 非正規196.200人 2010年 正規205.363人 非正規192.600人 2011年 正規213.165人 非正規198.300人 2012年 正規210.800人 非正規110.500人(?) 2013年 正規200.601人 非正規180.200人 正規雇用が案外減っていないでしょう。2007年の民営化スタート以前から非正規化がかなり進んでいて、もう行くところまで行っているのです。郵政グループ全体では2003年の郵政公社発足直前が正規28万人、非正規も合せて40万人と言われた。2005年の民営化法成立時に正規26万人、現在は正規22万人・非正規19万3千人です。12年の間で約40万という「大枠」はそう変わらず、その中で正規が6万減ってそのぶん非正規が増えた。しかし「生首を飛ばす」ような形では正規雇用を減らせないのも事実で、定年による自然減を待つか、居づらくして「本人意思」による早期退職に追い込むか。後者のケースになるとかなりシビアですが、最近ちらほら増えつつあります。ともあれ、正規雇用を一気に削るのは会社にとってもなかなか難題なのです。 そこで出てきた奇手が郵政版限定正社員と言うべき<一般職>の導入でした。正規雇用の中に新たに低賃金の層を創り出したのです。日本郵便の約20万の正規雇用のうち約10万は郵便事業、もう10万が郵便局の窓口ですが、郵便事業では2013年における会社が考える「あるべき姿」では従来の正規雇用(地域基幹職と呼ばれるようになりました)58.300人;一般職41.100人ということです。そういう構成が会社にとってベストであって、はやくそうしたいというのです。いっぽう郵便事業における非正規雇用は約14万人いたのに「あるべき姿」では75.700人に絞り込まれています。こんなに少ないのは、数万人はいる短時間パートを計算に入れていないからでもありますが、雇用保障の弱い非正規のほうが削りやすいということだ。つまり非正規雇用は「生首を飛ばし」、正規雇用は中身の半分を低賃金化する。付け加えれば、残った半分の正規には<エグゼンプション>を適用したいのでしょう。相対的高賃金と引き換えに労働時間規制なんか無い働き方をさせたい。ことし埼玉県和光市に開局した北部新局は郵便とともに物流拠点として設計されています。8月にここに異動した友人(地域基幹職)は、泊り勤務のときは22時から翌朝5時まで全く休息をとれないそうです。 <郵便事業コース2013年物調に基づく新「あるべき姿」> 地域基幹職(管理者と再雇用を含む) 58.300人 新一般職 41.100人 非正規雇用(時給制) 75.700人 地域基幹職なら、生涯で賃金が一番高くなる54歳時点で750万円くらいの年収になります。一般職はその年齢で482万円と試算されています。10;7の比率にもなりません。かつて斉藤社長(当時)は郵便のほうが同業他社より賃金が2割高いと不平を鳴らした。この数字を額面通り受け取ったとしても、一般職が導入されたことで郵便・物流事業に携わる正規労働者の半数近くはいずれ同業他社の労働者より1割がた安い賃金になってしまうわけです。ただし、一般職への入れ替えは、これまでのやり方ではそう急には進まない。上の「あるべき姿」の数字は、あくまで会社がはやくそう持って行きたいという数字であって、現時点では一般職はまだ数千人です。先ほど述べたように動きの悪い地域基幹職を名指して「あんた、来年から一般職になれ」とハッキリ言うほど露骨なことはまだできません。というか、従来の正規雇用に直接は手をつけないことで正規雇用中心のJP労組から一般職導入の支持をとりつけたのです。しかし、上場=投資家の視線に晒されれば、これまでのような悠長なことは言っていられなくなる。いま郵政株式上場について喋々する巷の雑誌やネットによれば日本郵便のネックは人件費の占める比率の高さだとか。日本郵便と一蓮托生の日本郵政の株価を上げたければ人件費を削れと大合唱だ。このさき地域基幹職から一般職への置き換えもスピードを上げていくことは明らかです。 産業別の闘いの可能性は そうした流れにどう抗していくか。それはまさに同業他社の労働者と、企業の枠を超えて産業別の統一闘争を作ること以外にないのではないでしょうか。会社はシーソーみたいなリストラ競争をやろうとしている。「我が社が大事」では、そのシーソーに乗ってしまう。 郵政一般職はこれまでの正規雇用と比べてどこを削られるかというと生活給の部分です。これまでは年功賃金でしたから、子どもが生まれる→学校に進むにつれて、あるいは自分の家を持ちたくなる年齢に応じて、賃金も上がっていった。前に述べたように養育費や教育費、住居費は社会的に支出されるべきものなのに、戦後の日本では大企業が自社の労働者に限ってそれをやった。それが労組の労資協調主義・企業内主義を育てもした。一般職の賃金体系は昇給が全くないわけではないけれどもものすごく圧縮される。労資協調主義や企業内主義を育む原資となってきた生活給の部分が剥ぎとられるのです。ということは労資協調主義に誘われる動因がこれまでより乏しくなるということだ。 去年の講座の最後のほうで、メンバーシップ型とジョブ型の対比ということを出しました。従来の正規雇用をメンバーシップ型とすれば、限定正社員はジョブ型の性格が与えられる。このことを盛んに強調してジョブ型=限定正社員を是とするのは濱口桂一郎氏です。たしかにジョブ型のほうが「会社あっての・・」という意識に囚われにくく、企業を超えた産業別の運動を作るにはこっちのほうがいい。ただ、ジョブ型が拡がっていくには、それと並行して、あるいはその前提として、これまで企業内的に行われてきた福祉が社会化されていなければなりません。これが欠けては正規雇用まで(こんにち多くの非正規雇用がそうであるように)ワーキングプアになってしまう。濱口氏はこの点を軽視しています。ジョブ型の性格は企業やブルジョア権力によって与えられるのではなく、私たちが産業別の闘いを通じて自ら身につけるものでなくてはならない。 しかし、メンバーシップにしがみつく従来の正規雇用よりも、メンバーシップ性を削ぎ落とされた郵政版限定正社員=一般職のほうが、元々メンバーシップから排除されている非正規雇用労働者と連帯・共闘する基盤を持っています。これは池田実さんなども指摘してきたことですが、このあいだまで公務員であったがゆえの妙な優越意識が郵便屋にはなかったわけではない。信書を配達できるのは公務員だけだ、みたいな。そんな意識が他企業の労働者とも本当に連帯することを妨げていた。おそらく、かつては国鉄の労働者にだってそういう問題はあったのではないか。民営化や物流へのシフトや一般職の導入はそんな優越意識を過去のものにします。闘いを創っていこうという上ではいいことです。 もちろん逆のベクトルも働く。日本郵便の経営は悪化を続けるだろうから企業防衛意識はかきたてられるだろうし、一般職の登用は選別的であること・地域基幹職との甚だしい格差が「オレは仕事ができる」と自負する一般職に「その上」を目指させる動因となることが競争を煽りもする。メンバーシップ性の多くを剥ぎとっておきながら、虚偽意識としてそれを持たせ続けようとするのが、非正規雇用とは異なる一般職を導入した狙いでもありました。 だから産別の闘いを創ろうとする力と企業内に引っぱりこもうとする力との綱引きになります。どういう運動をやればこの綱引きに勝てるかは、このあと討論で一緒に考えていきたいと思います。 (了)
by suiryutei
| 2015-09-26 08:28
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