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新聞『思想運動』4月1日発行号の8面、読者投稿欄に映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』について書きました。3月22日にUPした文章を少々スリムにした内容です。 http://suyiryutei.exblog.jp/26735397/ ![]() 映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』(ケン・ローチ監督、現在上映中)の公開を心待ちにしていたのは、同作品が最優秀賞を受賞した去年のカンヌ映画祭の模様を報じる新聞記事に、映画祭参加者の一部から結果にブーイングが起きたという記述があったからである。政治的な主張が露わすぎるガチガチの左翼映画だという批判であったように記憶する。 イギリス北東部の都市ニューカッスルが舞台だ。ダニエル・ブレイクは59歳の大工。妻を病気で亡くし、子はおらず、アパートに一人暮らしだ。彼が腕のいい熟練工であったのは、映画の後半、窮迫して家財道具の大半を売り払うとき、家財を持ち去りに来た業者が彼の大工道具が上等であるのに感心することでもわかる(ダニエルは大工道具だけは手放さなかったが)。 彼が窮迫していくのは、心臓を悪くして医者から働くことを止められたからだ。福祉の国と言われたイギリスなら、そういう場合は何らかのセーフティネットが働くだろうと思うところだが、今日のイギリスは過日のそれではない。民営化されてアメリカの会社が請負っている雇用手当受給資格認定者は基準を厳しくしてダニエルを「就労可能」としてしまう。指示されて求職者手当(日本の失業手当のようなものか)のほうを申請しようとするけれど、役所の窓口では手続きがすべてオンライン化されていて、それまでパソコンとは無縁の人生を送ってきたダニエルはとまどうばかり。この場面は、ダニエルと同世代の私には切実に他人事ではなかった。アパートの隣室に住む黒人青年の助けを借りたりして、どうにか申請はできた。ところが求職活動をやっているというのが求職手当を受給するのに必要な条件である。苦労して作成した履歴書を持って事業所をまわる。本当に就職するためではない。そうしないと手当が支給されないからだ。これが実直なダニエルを傷つけることになる。履歴書を見た事業所のひとつから「雇う」という電話がきたのである。事情を説明して断ると電話の主は怒って彼を侮辱する。健康でさえあれば働くことを厭わないダニエルにとってこれほどつらいことはないだろう。 役所の窓口で苦労しているとき、小さな子ども二人を抱えたシングルマザーのケイティと知り合う。ダニエルは大工の腕を生かして彼女たちの貧しい部屋を修繕してやったりするが、子どもに食べさせるために自分の食事は抜くような日々の中でケイティは身体を売るようになる。しかし、この一家はダニエルがいよいよ追い詰められていったとき今度は自分たちが彼を支える番だとばかり手を差し伸べようとするのである。胸が熱くなった。 さて冒頭に書いたカンヌ映画祭ブーイングの件である。いま現実に進行している事態を直視できない人たちがいるのではないか。いわゆる進歩派とかリベラルにも。そんな隙を衝いて、たとえばアメリカの大統領選挙ではトランプが勝ってしまったのである。 ![]()
by suiryutei
| 2017-04-02 09:02
| 映画・TV
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