新人事制度 大阪での報告①~③
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前々回の更新記事で紹介した映画『家族を想うとき』の主人公リッキーが職を転々としてから就いた仕事は宅配の配送である。会社に雇われるのではなく、配達に使う車を自分で調達して個人事業主という形で配達を請け負う。 ![]() 四年前に刊行されたルポ『仁義なき宅配』を思い出した。というのは、この優れたルポルタージュの著者・横田增生さんが行なった潜入取材の最初は、クロネコヤマトの下請け業者の軽トラックに同乗させてもらうことだったからである。取材にあたったヤマト運輸の配送センターには自社の配送車4台の他に下請けが1台入っていた。その運転席に横乗りした。 映画のリッキーと同じように個人事業主として配達にあたる菊池さん(仮名)の報酬は荷物一個につき150円強だ。そのセンターでは車両1台につき荷物は一日100個前後。朝7時から動き始めて、荷物を配り終えたのは夜9時前だった。拘束は14時間である。報酬は150×100=1万5千円くらいだから単純計算すると15000÷14で時給換算1000円強だけれど、ガソリン代やら車検代、保険代など必要経費を引くと800円台になってしまう。横田さんがその取材を行なったのは2014年であり、その年の東京の最低賃金は888円だったから、菊池さんの稼ぎを時給換算すれば最低賃金をおそらく下回るだろう。 雇用されている労働者ならば、雇用主は一日8時間を超す労働を彼にさせてはいけないし、させる場合は超過勤務手当を払わなければならない。賃金はもちろん最低賃金より低いものであってはならない。ところが、映画のリッキーや『仁義なき宅配』における菊池さんのように個人事業主ということにしてしまえば、労働者を保護するための規制であるところの労働時間制限や最低賃金制の縛りをくぐり抜けることができるのだ。イギリスでも日本でも近年フリーランスとか個人事業主という働き方が、労働者にそう選択させるように装いながら、じつは経営側によって広められてきた所以だ。 リッキーの労働時間も毎日14時間である。妻のアビーも介護士としてそれくらいの時間はたらく。リッキーが宅配の仕事に就くとき配送のバンを手に入れるのに、アビーが訪問介護に使っていた車を売って購入資金とした。そのためアビーは家庭訪問するのにバスを利用しなければならなくなり、それが彼女の長時間拘束に拍車をかける。そうして二人が疲れ切ってしまうことが、16歳の息子と12歳の娘を加えての4人家族のつながりに陰を落としていく。 ネタバレになってはいけないので、これ以上は書かないが、12歳の娘がじつに可愛らしい。16歳の息子も、前途を悲観して反抗的になっているけれど本当は思いやりのある子なのだ。両親は勤勉だし、いい家族なのである。それなのに彼らに不運が次々と襲うのは何故なのかを考えさせられる。 ローチの作品でもうひとつ思うのは「非暴力」の思想だ。思えば、アイルランド独立を目指す若者たちを描いた旧作『麦の穂をゆらす風』などでもそれは貫かれていた。今作でもリッキーは反抗的な息子に手を焼きながらも、日本のTVドラマや映画に出てくる父親たちのように手を上げようとはしない。ところが終盤、どうにも抜き差しならない状況に追い込まれて、つい息子をぶってしまう。それは誤解によるものだったのだが。 けれども、その行為をアビーがただちに厳しく叱責したことが、親が子に暴力を決して振るわないできた家族であったということをかえって印象づける。『麦の穂をゆらす風』が武装闘争をテーマにしながら非暴力の思想に裏打ちされていたように。
by suiryutei
| 2019-12-22 10:11
| 映画・TV
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