新人事制度 大阪での報告①~③
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題名にある「イエロー」は、母親であるところの著者が日本人だから。「ホワイト」は父親がアイルランド人だからである。そして著者の記述から引用すれば 彼の中には『白人』と『非白人』の二つの部分が別々にあって、その二つは必ずしも一つに溶け合っているわけではないようだ(本書36ページ)。 この題名は宿題のノートの隅っこに彼がした落書きから取られていて、「ブルー」は彼の気分を指すのだが、これにはちょっとひねりが利かせてある。どうひねられているかは、直接本にあたってみてください(一番下に貼り付けておいた新潮社作成サイトからも窺われます)。 親子3人の一家はイギリスのブライトンという町に住んでいる。著者が本の中でべつに紹介しているわけではなく、いま酔流亭が勝手にウィキペディアで調べたところ、ブライトン市というのはイングランド南東部に位置していて、人口は28万人強。観光都市として知られているそうだ。 この少年が11歳、日本とイギリスとでは学制がすこし違うのだろうが中学に進学するところから始まって16の話が収められている。最後の16話目では一年半が経って少年は12歳だ。 12歳といえば、やはりイギリスが舞台なので思い出してしまう。映画『家族を想うとき』に登場する4人家族の娘ライザも12歳であった。ライザは聡明な少女で、家族の気持ちがバラバラになっていかないよう案じていた。この少年も賢い。11~12歳にして、格差や貧困や差別やアイデンティティについて「いっちょまえに」(著者が何度か使う表現)に悩んでいる。 しかし語り手は少年ではなく、母親である著者だ。その語り口が快い。息子への愛に溢れながら、ベタつかない。前記した格差やアイデンティティについて息子とともに悩み、ときに配偶者も交えて話し合う。配偶者は希にしか出てこないのに、なかなか存在感がある。若い頃は銀行で働いていたのが、今は大型ダンプの運転手をやっていて、深夜労働にも従事する。彼が酔流亭とほぼ同世代である(彼は1956年、酔流亭は55年生まれ)のを、著者の二年半前の著書『労働者階級の反乱』を読んで知っている。著者は1965年、福岡県生まれ。ライターの他に保育士を生業としているのは出世作『子どもたちの階級闘争』によってよく知られているだろう。ただし、彼女が働いていた底辺保育所(底辺というのは、貧しい家庭の子どもたちが集まっていたという意味)は潰れてしまって、この本執筆時点では保育の仕事は休んでいるようだ。 イギリスはブレクジット(EU離脱)で揺れている最中だし、お隣のフランスでは黄色いベスト運動が燃え広がっている。スウェーデンで15歳の少女が決起したことに端を発する「スクール・ストライキ」(環境問題での大人たちへの異議申し立て)も飛び火してくる。貧困や格差、労働問題が階級政治の軸であると捉えているところに著者の面目、躍如たるものがあるように思う。これまでの著作にも「労働者階級」とか「階級闘争」という言葉を使うのを躊躇わない人だ。そこにも共感する。 しかし、階級矛盾が軸であるということは、それ以外の矛盾や差別がどうでもいいということではない。全16話のうち酔流亭が一番こころを揺さぶられたのは第4話「スクール・ポリティクス」である。終わりのほうで息子と同じくらいの年齢の少女だった頃の自身の思い出が語られる。 九州の貧乏な家で育った。あるとき、同級生の、裕福な家の息子に「ボロい借家の子」とからかわれた。悔しくて「おまえだってあの地区の住人のくせに」と言い返した。男の子は被差別部落に住んでいたのだ。殴り合いの喧嘩になった。 二人を担任する先生が止めに入った。学校を出て間もない、若い女の先生である。少女(子ども時代の著者)は先生が何も言わないうちから下を向いて泣きじゃくった。叱られるのは自分だと思った。自分が酷いことを言ったことはわかっていたし、その先生は被差別部落の男性を好きになって、しかし周囲からも家族からも反対され、家出して部落に移り住んで結婚した人である。そのことを大人たちから聞いていた。 ところが、先生は2人を平等に叱った。 暴力は言葉でもふるえるんです。2人とも、殴られるよりそっちのほうが痛かったでしょう(69ページ) それから40年後、少女は一児の母親となって息子にこう語る。 差別はいけないと教えることが大事なのはもちろんだけど、あの先生はちょっと違ってた。どの差別がいけない、っていう前に、人を傷つけることはどんなことでもよくないっていつも言っていた。だから2人を平等に叱ったんだと思う 著者がこういう見事な本を書くことができたのは、人格形成期にこんな先生と出会えたことも背景にあったろう。
by suiryutei
| 2020-04-09 09:02
| 文学・書評
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Comments(2)
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