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昨日の更新記事で触れた『武器としての「資本論」』(白井聡 著)の第5講(この本は全部で14の講から成っている)に、映画『男はつらいよ』シリーズ第一作(1969年)が言及されている。 妹、さくらの見合いが、寅次郎のせいでダメになってしまう場面である。倍賞千恵子が演じたさくらが、あの映画シリーズ全作を通じてどういう存在・キャラクターであるかは、全48作のうちどれかを観たことがある人なら誰もが知っている。話題にされているのはシリーズ第一作目の場面だから、彼女が印刷工・博と結婚する前のことである。 見合いの相手は彼女が勤めている会社(丸の内にある大企業であって、彼女は高卒で就職して、そこでキーパンチャーをやっている)の子会社の社長令息。つまり、さくらにとっては玉の輿になる縁談だ。 ところが、同席した寅次郎が、酒が入るにつれ、いつもの調子で「くだけて」いってしまい、寅次郎・さくらの兄妹と相手方の社長一家との所属する"階級差”みたいなものが露わになっていき、結局その縁談は流れてしまう。 その寅次郎は、普段は隣りの印刷工場で働く青年たちに 「あいつ(さくら)は大学出のサラリーマンと結婚させるんでぇ。てめえらみたいな職工には高嶺の花だよ」 こう毒づきながら、一方、その職工の一人である博がさくらへの思いを 「僕は親兄弟もいないも同然だし、大学も出ていないから・・」 と、学歴の無い貧しい労働者であることに引け目を感じて彼女に打ち明けられないでいるのを 「お前は大学を出なきゃ嫁は貰えねぇってのか? ああ、そうかい。てめえはそういう主義か?」 そうどやしつけもするのである。 たしかにここでの寅次郎の言動は矛盾している。 前者は、最愛の妹を「階級上昇」させてやりたいという思いだ。 ところが、後者から覗われるのは、その「階級上昇」という行き方に対する反撥なのである。 しかし、相反するようなそういう両方の思いを我々は大抵もっている。だから映画の観客は、寅次郎は矛盾しているなどと野暮を言わず、違和感なく受け入れてきた。 ところが、最近の若い世代からは違う反応が観察されるようになってきたらしい。これは『武器としての・・』の著者・白井聡の観察というのではなく、「労働運動家であると同時に、映画評論や文芸批評も行なっている西口想氏」のエッセイで読んだ話として白井は紹介している。 どういうことかというと、寅次郎が自分の地を出してしまって妹の「良縁」を壊してしまったことへの批判しか覗われない反応が、若い世代から出てきているというのだ。 <性格に難がありすぎて結婚もできない独身の自称テキ屋という男が、やりたい放題やっているだけ> <クソみたいな男> この「変化」から西口想氏は階級についての日本人の感覚が変わってきたことを感じ取る。 「・・暗黙の了解だった含意がいつからか伝わらなくなり、現代の観客には寅さんがただの<クズ>に見える」 「寅さんが<クズ>に見えてしまうのは、寅さんがさくらの階級上昇を邪魔することに無意識にむかついているからではないか。それは一見、私たちに不可視なものになっている『階級』が、半世紀前よりも過激な形で存在している証左のようにも思える」 「階級上昇」に対する反撥が効かなくなってきたということであろうか。白井の表現では「資本主義的価値観への同調に対するためらい」(83ページ)が弱くなってきたということだろう。 この話題が出てくる第5講では、前の第4講と共に<包摂>について論じられている。『資本論』をほとんど読んでこなかった酔流亭には馴染みが薄いのであるが<包摂>とは『資本論』の重要なワードであるようだ。何だか労働者が資本によって抱き取られていくようなイメージである。そういう捉え方でいいのかどうかは、これから酔流亭も『資本論』にぶつかっていく中で考えていきたい。 ところで、昨日の更新記事に書いたように、『武器としての「資本論」』が我が家に届いたのはこの前の日曜日であった。翌日の月曜から少しずつ読み進め、問題の第5講まで進んだのがたしか火曜日の昼過ぎ。自室で、NHKのFM放送をかけていた。すると、午後1時半から2時までの30分間、倍賞千恵子の特集が流れたのである。彼女は女優であるだけでなく、歌手としてもいくつもヒット曲を出している。このブログで何度も言及してきた2017年のNHK朝ドラ『ひよっこ』では、ヒロインみね子が初め働いていたラジオ工場の女子寮の舎監、愛子さん(演・和久井映見)は倍賞千恵子のデビュー曲『下町の太陽」をよく口ずさんでいた。 30分間の特集の一曲目はその『下町の太陽』、最後の曲は、これもよく知られた『さよならはダンスの後で』。その間に『さくらのバラード』という曲もかかった。寅さんの山田洋次監督が作詞し、途中、渥美清のナレーションが入っている。 『武器としての「資本論」』のあの箇所にさしかかったときにこんな放送を聴いたのは全くの偶然ながら、ちょっと嬉しかった。
by suiryutei
| 2020-07-25 10:13
| 文学・書評
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