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新人事制度 大阪での報告①~③
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10月3日のHOWS講座での報告の転写を続ける。文中、大西の批評から引用した箇所にはカッコでページを表示した。そのテキストは大西巨人批評集『戦争と性と革命』(三省堂)である。
さて私はこの夏『真空地帯』を高校三年生の夏以来48年ぶりに読み返してみた。そうして、まず素直に感動した。主人公の一人、兵士木谷が将校同士の派閥争いに巻き込まれて事実以上の重い罪を着せられていく過程、彼を陥れた将校に恨みを爆発させる場面など胸につまる。娼婦花枝に対する木谷の執着も、大西は「淫売買い」と切って捨てるが、7歳のとき父親を喪い、13歳で母に棄てられ、孤独のうちに世間の冷たい風に吹かれてきた木谷が、客商売としてであれ親切に接してくれた花枝に恋々とする(恋愛とは違うだろう)のはわかるのである。なお遊郭に通う行為を大西が弾劾するのは全く正当だけれども、「淫売」という語は性産業に従事する女性への蔑称として使われてきた。大西はこういう言葉を使うべきではなかったと思う。 もう一人の主人公である曾田一等兵は大学出のインテリゲンチャ(兵隊にとられるまでの職業は教師)で、左翼反戦思想の持ち主である。軍隊の非人間性にとりこまれずに自分の内面をよく守っているように見える。曾田は自分が軍法会議にかけられることを恐れているが、野間宏は兵役中の1943年、入隊前の左翼運動との関わりを詮索されて軍法会議にかけられ半年間の刑務所生活を経験している。木谷の刑務所生活も軍法会議への曾田の恐れも、作者・野間のそうした実体験を踏まえて書かれているのだろう。『真空地帯』が出版された1952年といえば、軍隊生活の経験者は社会のあちこちにまだたくさんいたはず。この人たちが共感を寄せたことはよく理解できる。52年の初版3000部が最終的には15万部を超すベストセラーになり、同年映画化もされた。 大西巨人も『真空地帯』の描写の秀抜は評価していたと思う(たとえば14ページ「・・この作品の兵営生活の描き方は、その部分部分においては正確であり、その細部においては真実である。・・」)。1915年生まれの野間宏は1941年に教育召集を受けて歩兵砲中隊に入営、1916年生まれの大西巨人は1942年に教育召集を受けて歩兵砲中隊に入営するのだから、ほぼ同じ時期に似たような兵営生活を経験している。共感したところがあったのではないか。 当時『真空地帯』に大西とともに批判的だった佐々木基一は1991年、雑誌『群像』での座談会(他の出席者は小田実・小田切秀雄)において、自身の『真空地帯』批判もやわらげつつ、大西巨人が当初は同作品を絶賛したと証言している。 報告者はこの佐々木発言をインターネットから「野間宏『真空地帯』と国民国家論」という論文(「立命館言語文化研究」第27巻掲載)で知った。 http://www.ritsumei.ac.jp/acd/re/k-rsc/lcs/kiyou/pdf_27-1/RitsIILCS_27.1pp35-49NAITO.pdf 論文執筆者(内藤由直という人)は、当時の日本共産党内の路線対立(所感派と国際派)が持ち込まれた結果、大西は本心の『真空地帯』肯定を押し殺して批判に転じたと解釈している。所感派の主導する地域人民闘争に野間が没入したのに対して、国際派の大西は地域人民闘争に厳しく批判的であった。そうした対立は文学の場では新日本文学会から分かれる形での雑誌「人民文学」の発刊→その後の新日本文学会への復帰となって顕われた。野間は「人民文学」に関わり、大西は新日本文学会の常任であった。 これがそのとおりだとすれば、政治の立場から文学に介入したのは後の宮本顕治ではなく、大西巨人その人だということになってしまう! 報告者はそういう解釈はとらない。日本共産党内の路線対立が背景にあったのはそのとおりだとしても、政治的な路線対立によって文学の評価を変えたという話ではなくって、路線の違いが文学の場においても争われたということだろう。報告者が冒頭に挙げた4点も、この路線対立に関わっている。問題は大西にとって『真空地帯』の何が否定されなければならなかったかだ。 (続く) 『俗情との結託』をめぐって ~大西巨人の批評を読む① : 酔流亭日乗 『暗い絵』との関連 ~大西巨人の批評を読む③ : 酔流亭日乗 ルンペンプロレタリアとは ~大西巨人の批評を読む④ : 酔流亭日乗
by suiryutei
| 2020-10-07 08:45
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