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今年3月19日が第一刷発行となっている『労働組合とは何か』(木下武男著、岩波新書)についての書評は、ネットでは今ざっと見渡した限りでは濱口桂一郎氏が氏のブログの3月25日更新記事で取上げたくらいのようである。 刊行されてまだ一月も経っていないのだから、そんなものであろうか。むしろ濱口氏の反応の早さが際立っているということなのだろう。 ただ、濱口氏は同書に対してかなり批判的である。その批判については酔流亭が下手に要約して紹介するより、濱口氏の当記事を上に貼り付けたから直接全文を読んでいただいたほうがいいと思う。 酔流亭がそれを目にしたときは木下氏の本を買ったばかり。まだ五分の一も読んでいなかったから、その先は濱口氏の批判を頭に置きつつ読み進めた。そして読後感を述べるならば、批判にもかかわらず、『労働組合とは何か』はきわめて有益な本であって、労働運動に関わる・関わろうとする人にとっての必読書である、ということだ。 なるほど本書ではイギリスやアメリカでかつてユニオニズムが「離陸」を遂げた物語を日本の労働者が習うべき手本のように紹介する一方で、近年のイギリスやアメリカの労働社会については触れない。濱口氏によればそれらの国でも労働組合は今や壊滅的打撃を受けて、むしろノンユニオンが主流となっているということである。 すると 半世紀前の英米労働史中心史観のままでは、現在の世界の労使関係状況を分析できないのではないかということです。 という濱口氏の指摘はおそらく当たっているのだろう。ただ木下氏の本の主眼は「現在の世界の労使関係状況を分析」することにあるのではなかろう。イギリスやアメリカでのユニオニズムの「離陸」と上に書いた。その「離陸」とは、木下氏は熊沢誠氏の旧著『日本の労働者像』(1981年)に倣って、こう説明する。 「労働者のなかのある階層が資本主義社会の<貧民>または<国民>一般から自己を分離し、やがてはそのありかた、考えにおいてある独自性をもつ組織労働者になること、そのプロセス」、これが「離陸」である。(156ページ) この「離陸」を日本の労働者階級はまだ遂げていないのである。職業別労働組合によって労働者上層の熟練工が行なう「第一次離陸」はうまく行かず、それも尾を引いて、その後の半熟練工を中心とした産業別労組・一般労組による「第二次離陸」にも失敗した。そのユニオニズム未誕生の上に企業別労働組合が載っかってしまったことが、濱口氏が明晰にもジョブ型と対比させる日本独特のメンバーシップ型労働社会の土壌となったのではないか。 本書を貫くのは、日本の労働社会をメンバーシップ型からまともなジョブ型に転換させるためにも、労働者はとにもかくにも「離陸」を果たさなくては、という木下氏の熱い思いである。 敢えて言えば、ジョブ型とメンバーシップ型の軸と、政治志向における左派と右派の軸が混交してしまって、分析が濁っているように見えます。 そう濱口氏は批判するのだが、混交しているのは戦後日本労働運動の表面(おもてづら)がそうなのであって、その奥にあるものを木下氏は掴んでいる。氏が関西生コン労組に肩入れするのは、同労組が左派である前にジョブ型の産業別労働運動を創ってきたからである。 民間労組が協調化した後、なお左派運動をやっていた公的部門の労働運動も、国労にせよ全逓にせよみんなやたらに大きな企業別組合なのであって、なんらジョブ型ではなかったし、政治的に潰されると見事に民間型の企業主義的組合になったのも、政治的論評はともかくとして、労働組合としての本質はなんら変わっていないとしかいいようがないのです。 濱口氏の書評の終わりのほうにあるこの指摘はまったくその通りだ。組合名を挙げられている一つ、全逓に長年身を置いてきた酔流亭には身に染みる。「やたらに大きな企業別組合」であって「なんらジョブ型ではな」く、いまや「見事に民間型の企業主義的組合になった」旧全逓(現JP労組)が、そのままジョブ型の労組に転生していくことはありえないであろう。郵便・物流業界においてJP労組が組織していない非正規雇用労働者の間から新しいユニオニズムは生まれていくだろうし、それを創り出すべく私たちは闘っていかなくてはならない。その闘いに取り組んでいくにあたって木下氏の『労働組合とは何か』は、現在のところ最良の手引きの一つと断言していい。
by suiryutei
| 2021-04-09 09:30
| 文学・書評
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Comments(6)
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