アゾフ大隊

ウクライナからの報道に、この頃「アゾフ大隊」というのをにわかに目にし耳にするようになった。

これまでマスメディアではその名はあまり出てきていなかった。

存在だけは酔流亭も聞いたことがあったアゾフ大隊が大手のメディアにも登場したのは12日だ。要衝マリウポリを巡る攻防でロシア軍が毒物を使ったと、そのアゾフ大隊から発信があったのである。

「ロシア軍がドローンを使って上空から毒物を投下した」（11日、アゾフ大隊SNS発信）

アゾフ連隊「ロシア軍が毒物を投下」主張　“化学兵器”可能性は…「制圧作戦では有効」専門家の指摘も（日テレNEWS） - Yahoo!ニュース

ところが、そういう情報ならいつもは飛びついてロシア非難をくり出すはずのアメリカが冷淡だった。

「現時点では確認できず、状況を注視する」（同日、アメリカ国防総省のカービー報道官）

【解説】ロシア軍がマリウポリで“毒物”使用か　兵士や民間人に呼吸困難などの症状も（日テレNEWS） - Yahoo!ニュース

それから一週間たった。続報はない。

つまり、ロシア軍が毒物を使ったというのはウソだったのだろう。

アメリカ国防省が冷淡だったのは、これは信用できないと思ったからであるに違いない。

アゾフ大隊というのは、そういうこと（デマを飛ばす）を平気でやる集団だということだ。それは国際的常識であったようで、現に日本の公安調査庁のホームページにさえアゾフ大隊はネオナチと記載されていたという。

いま過去形で書き、伝聞として書いたのは、今月に入ってから同HPからその記述が消えたと聞いたからである。今や自分の目で確認することはできないから、「そう書いてあったよ」という話を信じて論を進める。

この戦争でウクライナ政府（ウクライナの民衆ではない、その政府だ）全面加担を決めた日本政府は、その戦争協力体制にとって都合の悪い事実は消してしまいたいのである。

そういえば、4月11日ごろロシア軍が毒物を使ったという、今となってはウソとわかったニュースについて日本のマスメディアは「あれは間違った報道でした」とはっきり言うことをしない。あやふやにしている。だから一番上に貼り付けておいたようなネット記事が消去もされないでネット上に残ったままだ。

そういう〝ニュース”を通じて「野蛮なロシアは何をやるかわからない」というイメージだけはどんどん拡散されていくから、「あのニュース、ウクライナ軍の一員であるアゾフ大隊がまき散らした嘘だったんだね」とはっきり認識している人はそう多くないのではないだろうか。

酔流亭はこの戦争でロシアの肩を持つつもりはさらさらない。ロシア軍がやっていることは野蛮だ。ロシア人ではなくロシア軍が野蛮なのだ。戦争がそもそも野蛮な行為だからだ。だから戦争を始めたプーチンのロシア政府はとにかく悪い。

だが、今度の毒物云々に明らかなようにプロパガンダは、戦争となれば双方がやる。

ウクライナで民間人が大勢犠牲になっているのはウクライナのプロパガンダではなく事実である。悲惨な事態だ。ロシア軍はひどいことをしている。同時に、ゼレンスキー大統領が市民に武器をとれと呼びかけているのはどうかと思う。市民を軍隊が攻撃してはならないと国際法が定めているのは市民は非戦闘員だからだ。ところが政治指導者が自国の市民に「銃をとれ」と呼びかけては、それは「我が国の市民は戦闘員だ」と宣言することである。国際法による保護対象から自国民を外してしまうことになる。

戦争は、始めたほうが悪い。それははっきりしている。しかし今はとにかく停戦させることだ。そのためにこそ声を上げたい。