新人事制度 大阪での報告①~③
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明日、5月1日は労働者の祭日、メーデー。それに向けて相応しい更新となっているかどうか。 これも『伝送便』誌5月号に寄稿したものです。メーデーを前にした特別?更新ですので、普段よりちょっと長いです(『伝送便』誌3ページ分)。明日は朝からメーデー集会、午後は東京東部労組呼びかけの反戦メーデー官邸前行動に参加するので更新は休みます。 ![]() 郵政における今年の春闘については、本誌先月号特集に現場からの報告がいくつも載った。山下さんが報告したように、一般職のみ一〇〇〇円アップを除けば七年連続で今年もベースアップはゼロであった。喫緊のはずの月給制・時給制契約労働者の賃上げも無い。時給制に「三年切り」の毒素が仕込まれたことは岡崎さんが糾弾している。不満だらけの妥結内容である。いっぽうユニオンの力強いストライキ突入を船山さんが報告した。今年の妥結にただちに影響を顕わさないにしても、現場からのこうした闘いが労使協調のJP春闘をいつか引っくり返す導火線となっていくに違いない。 そうした先月号特集を承けて、この稿では、今年の春闘の全体状況とでもいったものを見ておきたいと思う。
国際比較すると
すこし古い数字で失礼。労働政策研究・研修機構『データブック国際労働比較2018』によれば、日本の労働者の賃金は製造業では二〇〇〇年時点では米英独仏より一~四割高かった。それが二〇一六年にはいずれの国よりも低くなった。購買力平価換算では英より一割、米より二割、仏より三割、独より四割安い。シンガポールは二〇一〇年時点では日本の約半分だったのが二〇一八年では一割低いだけになった(今年はもう追い抜かれている?)。昨今「日本の賃金は今や韓国より低い」と対韓侮蔑的ニュアンスも込めて語られるが、事実二〇一五年ごろに抜かれた。日本の賃金は一九九七年をピークに、以降年率一%弱で低下を続け、二〇一二年にはピークより一割以上下落した。二〇一七年にはIMF(国際通貨基金)から日本では需要刺激策として賃金引上げが必要と指摘される有様である。
どう下がってきたか
二つの方向で賃金が縮小・圧縮された。 A.いわゆる非正規雇用の拡大 B.常用雇用における年功カーブのゆるやか化 背景にあるのは日経連が一九九五年に打ち出した『新時代の「日本的経営」』だ。 ① 長期蓄積能力活用型グループ←これだけが従来の終身雇用(常用雇用) ② 高度専門能力活用型グループ ③ 雇用柔軟型グループ(いわゆる非正規雇用) この三つの類型分けを行ない、①を削って③を増やした。③は賃金が低いから①を減らして③を増やせば全体として賃金の縮小が進む。また①の内部で年功カーブを従来よりゆるくしたことにより比較的高賃金の①における賃金圧縮も進んだ。 一方、②は伸びなかった。①が削られたとはいえ、なお主流にいた(いる)ので②が伸びられなかったとも言える。②は高度な技能によって高報酬を得る労働者。②が伸びないから日本は世界と比べると高スキル労働者の賃金も見劣りするといわれる。二〇一九年の調査でIT部門のディレクターが東京では年収一五〇〇万~二〇〇〇万円に対し北京では一七八〇万~二九二〇万円ということである。すると技術革新の速さに対応できる人材を確保できない。政府・経営サイドから「ジョブ型」雇用ということが盛んに言われるようになった理由の一つである。
「ジョブ型」、資本の狙いは
政府・経営側が「ジョブ型」雇用を推奨する他の理由は年功賃金の出し惜しみであり、また③の低待遇を、これがジョブ型でジョブ型が世界標準だと開き直るため。もちろんそれは強弁であって、本当のジョブ型ならジョブに企業横断的に値が付いている。どの企業で働いていても、典型労働者(フルタイム)であろうが非典型労働者(パート)だろうが同じ仕事なら時間単位の賃金は同じだ。日本にはそうしたジョブの値が無い。非正規だという理由で低賃金なのである。それはいわば〔擬似ジョブ型〕にほかならない。前号で山下さんが「決して受け入れてはならない」と注意を呼びかけている(四ページ)ところのものだ。
近年の春闘では
今世紀に入ってからの春闘の平均賃上げ率を一瞥すると、二・〇一%の賃上げ率だった二〇〇一年以降、二〇〇二年から一三年までは一%台に低迷した。賃上げのうち定期昇給が占めるのが一%台後半というから、定昇込みで二%に届かないというのはベースアップはほとんどゼロが続いたということだ。「牽引役」であったトヨタも二〇〇二年から四年間ベアゼロであった。 この間、二〇〇九~一二年は民主党中心政権だった。同政権の下で労働契約法改正(私たちには馴染の例の二〇条など)が行われるかして雇用政策面では僅かの手直しが加えられたけれども非自民党政権は賃上げ面では何の影響を与えなかったと言っていいと思う。 二〇一二年暮れに自民党は政権奪還を果たし、第二次安倍政権は二%インフレ目標を達成するためにも労使に賃上げを要請、二〇一三年秋、「政労使会議」が設置される。「官製春闘」という言葉が登場したのはこのときだ。二〇一四年春闘では一三年ぶりに二%台の賃上げとなった(二・一九%)。以降、ほぼ政府は三%を要請、連合は四%を要求(ベア二+定昇二)する(今年も同様だった)が結果は二%を僅かに超すだけという状況が続く。二〇二〇年はギリギリ二・〇〇%で官製春闘も息切れしてきたところで、去年はコロナ禍もあって一・八六%と、また一%台に戻ってしまった。 二〇一八年 二・二六% 二〇一九年 二・一八% 二〇二〇年 二・〇〇% 二〇二一年 一・八六% 今年は経団連の<経営労働政策委員会報告>も従来よりは賃上げに容認的だったらしくある。輸入原材料の値上げを商品価格に転嫁しようにも消費者でもある労働者の賃金が上がらなくてはそれがなかなか難しいからである。賃上げが無いと政府としても勤労者からの税収増を見込めない。それで岸田政権も賃上げに前向きだ。つまり財界も政府も少しは賃上げしないことには経済が回らないという認識はあった。ところが蓋を開ければ、連合が三月一八日に発表した第一次集計は二・一四%である。四月から食料品など生活必需品の値上げが目白押し、ウクライナで始まった戦争で物価値上げはこの先も収まらないらしい。岸田政権が要請した三%が達成されたとしても実質賃金の低下は避けられないところなのに。
トヨタの場合
回答予定日を一週間前倒しして三月九日に「満額回答」で妥結したトヨタは、一時金が年間六・九月。基本賃金は去年に続きベースアップを要求したかどうかさえ明かさない。「春闘の中心テーマは、賃上げから競争力向上のための職場環境に移っていった」(朝日新聞二月二一日朝刊)。トヨタ労組は今年、全組合員平均として要求金額を示すのをやめ、代わりに職種や職位ごと一二パターンの要求を出したという。一見、人基準から仕事基準への変化(ジョブ型?)というふうに見えかかるけれど、労働者の連帯を否定する方向での「個人処遇化」をいっそう進めるというのが実態か。慎重に検討したい。ともあれトヨタだけでなく、民間大労組の多くにとって春闘は賃上げを交渉するより企業の生き残り戦略を労使が「協議」する場に変質して久しい。わが郵政もまた。
どう打開するか
働く者の置かれた状況が酷くなっているのは世界共通の現象だが、それでもOECD(“先進”三八ヵ国による経済協力開発機構)の統計によればG7の日本以外の六ヵ国では二〇一八年の労働者の平均年収は一九九五年より五割上昇しているのに日本はせいぜい一割強の上昇にとどまっている。 どうしてそうなのか。体制側の論者も含めて誰もが言うのは日本の労働組合が企業別組合だからという理由だ。企業に「支払い能力」を持ち出されると弱い。そうして企業ごとに分断される中で「メンバーシップ型」と呼ばれるような労使関係が培われてきた。しかし、この呼称は正確ではない。いくら労使協調しようと労働力の売り手である労働者が買い手である企業の本当の意味での内部者(メンバー)になることはないからである。資本主義社会で企業のメンバーと呼んでいいのは出資者(株主)である。日本ではジョブ型は疑似だと前述した。対称して、労働者に付与されているというメンバーシップもそうだ。 しかし、メンバーシップ型とつい特徴づけたくなるほど資本による労働者の包摂が進んでいるのは事実だろう。一方、この包摂の埒外に置かれる労働者も増えているのが現代の特徴だ。先に述べた『新時代の「日本型経営」』における②および③の類型である。高スキルと引き換えに高報酬を得る②を労働運動の担い手と考えるのは現実的ではない。主役となるのは③だ。郵政でいえば今年もまったく賃上げのない月給制・時給制の契約労働者であり、登用されても低賃金のままの一般職である。本誌誌面でも時給制の若い仲間からの寄稿が近年増えているのにお気づきと思う。資本からの要請によるのではない、本当のジョブ型への道は彼らが切り開いていくだろう。 包摂されるのを拒もうとする部分は①(従来の正規雇用)の内部にも存在するが少数派に追いやられているのが現状だ。この部分と③との連帯・協働をもっと進めよう。日本の労使関係を土台からひっくり返す展望がその先に開けていくはずだ。本誌をそのツールとしておおいに活用してください。
by suiryutei
| 2022-04-30 08:02
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