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昨日(22日)の朝日新聞朝刊。文化欄に載った記事を読んで「我が意を得たり」という思いだ。 映画評論家としても知られる蓮寶重彦さんがジョン・フォードを論じた新刊を出したという。そのことを取り上げているのである。 ・・「騎兵隊」三部作の第一作『アパッチ砦』という作品がある。軍国主義の典型のように言われるが、事はそう単純ではない。・・(中略)・・ 「ウェインのすさんだ顔を見れば、軍国主義の賛美などではありえないと分かるはずです。部隊が壊滅したこの映画を、第二次大戦で米国が勝利した三年後に発表している。これが保守反動の監督に撮れますか」 上の引用の中のカッコでくくったところが蓮寶さんの言葉だが、まさにそうだと酔流亭も思う。『アパッチ砦』がNHKBSで放映されたのを去年秋、腸捻転で入院中に病院のベッド備え付けのTVで視たときのことを、酔流亭も闘病記『腸が捻じれた話』(雑誌『労働者文学』No.90掲載)に書いた。その箇所を、もう何度目かになるけれど、下に貼り付けよう。 ・・・その前後、一日はジョン・フォード監督『駅馬車』が、八日にはやはり同監督『アパッチ砦』が放映されている。 『駅馬車』は作品としては素晴らしいと思う。また、この映画における敵役は先住民ではなく、ジョン・ウェイン演じる主人公リンゴ・キッドの弟を卑劣な方法で殺害した白人三兄弟である。しかし、リンゴらの乗る駅馬車が先住民の襲撃を受け、リンゴらのライフルによって先住民が次々撃ち倒されていく場面は、視ていてやはり嫌な気持ちになる。アメリカ合州国の史実においては、襲ってきたのはまず白人の側からであって先住民からではないからだ。 ところが、その一週間後に放映の『アパッチ砦』は白人こそが侵略者であったという史実を反映した作品であった。 辺境のアパッチ砦に司令官として赴任してきたサースディ中佐に扮するのはヘンリー・フォンダ。サースディ中佐は軍中央とそりが合わず、左遷されてきたらしい。それで、大きな武勲を挙げて軍中央に復帰したいという野心を抱いている。騎兵隊の司令官が武勲を挙げるといえば、先住民を討伐することに他ならない。 砦に以前から勤務していて部下に信望篤く、先住民とも一応の信頼関係を作っているオーク大尉を演じるのがジョン・ウェインだ。サースディ中佐はこのオーク大尉の反対を押し切って先住民攻撃に出撃する。彼が当初たてた作戦は、先住民の野営地を包囲して攻撃することだ。平原で戦士集団と雌雄を決するのではなく野営地を攻撃するというのだから、女性や子どもら非戦闘員ごと殲滅しようと目論んだのは間違いない。ところが先住民の知謀ある部族長は巧みな用兵でサースディ中佐の当初の作戦を破綻させ、谷間での決戦にひきずりこんで騎兵隊に壊滅的な打撃をくわえる。サースディ中佐も乱戦のなか戦死した。 サースディ中佐と対立して後方の兵站に回されていたオーク大尉は生き残った兵站の騎兵隊員たちに銃を撃たせず、先住民の前で武器を捨てる。すると先住民の戦士たちは攻撃を中止して引き揚げていくのである。オークらを殺さなかったのは、部族が生き残っていくためにその後も避けられない白人との交渉にあたって話の通じる人間を白人側に残しておきたいという思惑だったのかもしれない。ともかく部族長のまさに「武士の情け」によって騎兵隊の残兵は救われるのだ。 こんな、騎兵隊が卑劣な攻撃を仕掛けた挙句に敗北して先住民に全面降伏するような映画をハリウッドでよく作れたなあと思う。時代状況が反映しているのであろうか。制作された一九四八年といえば、ハリウッドを襲うことになるレッドパージ(赤狩り)は、その兆しは出ていたろうが、世を覆うまでにはなっていない。いっぽうニュー・ディールの進歩的な気分はまだ残っていたろう。ハリウッドの内幕なんて私にはさっぱりわからないけれど、戦争直後に作られたウィリアム・ワイラー監督『我等の生涯の最良の年』(一九四六年)や赤狩りをくぐり抜けた男女の軌跡を回想したシドニー・ポラック監督『追憶』(一九七三年)などをつなげて、そう推測する。第二次大戦では先住民によって編成された部隊が活躍もしたというから融和的政策という面もあったのかもしれない。あのタカ派のジョン・ウェインがこの映画によく出演したものだが、その前に『駅馬車』(一九三九年)で自分を大スターに育ててくれたジョン・フォードには頭が上がらなかったか。 映画の結末は、その戦闘から二~三年後の場面である。オークは左官か将官に昇進していて、司令官室には戦死したサースディ中佐の肖像画が掲げられている。新聞記者たちに取材されて、サースディがいかに勇敢に戦ったかを語るのである。戦死したかつての上司を称えるのは軍人としての礼節なのかもしれない。サースディが勇敢に戦ったのはその通りだ。しかし、その戦いがそもそも理不尽なものであった。オークはそのことには触れない。こうして歴史が偽造されていったのだろう。ジョン・フォードは米国軍人の勇敢さを一見称えるような結末を用意して「反米」呼ばわりされることを巧妙に回避しつつ、本当は何が行なわれていたのかを示唆しようとしたように思われる。 その一週間後の一五日には『アパッチ砦』に続く騎兵隊もの『黄色いリボン』(一九四九年)も放映された。やはりジョン・フォードとジョン・ウェインのコンビ。私はもう退院していたから自宅で視た。しかし、これはもはや騎兵隊を讃歌するだけの映画だ。さしものジョン・フォードにしても『アパッチ砦』のような映画を続けては世に出せなかったのだろうか。 ジョン・フォード『アパッチ砦』~「腸が捻れた話」② : 酔流亭日乗 (exblog.jp) 蓮寶さんが昨日の朝日新聞記事の中で「ウェインのすさんだ顔」と述べているのは、ジョン・ウェインが演じた主人公オークが部隊壊滅の数年後に新聞記者たちから取材を受ける場面でのことだ。その場面を酔流亭は上に引用したように 「ジョン・フォードは米国軍人の勇敢さを一見称えるような結末を用意して<反米>呼ばわりされることを巧妙に回避しつつ、本当は何が行なわれていたのかを示唆しようとしたように思われる。」 と理解した。 ジョン・フォードについては酔流亭も語りたいことがたくさんある。いずれ小出しに出していきますね。
by suiryutei
| 2022-07-23 06:37
| 映画・TV
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