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【いてんぜ通信】の23年夏号(第10号)を送っていただいた。好きなことを存分に書かせていただけるので、酔流亭にとって実にありがたい。 ![]() 今号への寄稿は少し長い(7000字弱)ので、今日と明日に分けて転写します。 ![]() 前号(2023年春号)への私の寄稿(『豆腐で飲む』)は、自分の病状報告であった。腸閉塞(S状結腸捻転症)の手術を受けるため1月28日から入院した。『豆腐で飲む』はその二日前、1月26日で終わっている。今回はその続きを書かせてほしい。 豆腐で飲む ~【いてんぜ通信】23年春号寄稿 : 酔流亭日乗 (exblog.jp) 2月9日に退院した。入院中の模様を簡単に書いた文章があるので全文を写そう。郵政労働者の交流誌『伝送便』の3月号に掲載された。
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断腸の記
全身麻酔による手術を生まれて初めて経験した。病気は「S状結腸軸捻転症」というもの。S状結腸とは大腸の末端にあって直腸につながる。私のそれは一昨年から何度か捻転、つまり捻じれた。捻じれては腸が閉塞する。危険な病気である。発症するたびに内視鏡による整復治療を受けてきたが、頻発するならいっそ手術をしてS状結腸を切除してしまえ。医師と相談して、そう結論したのが去年一二月二〇日である。 ところが手術室がずっと塞がっている。最短で一月末まで待たなければならない。それまで捻転を発症させないこととコロナに感染しないことに気を使った。直前にコロナに感染しては、せっかく決まった手術日程が吹っ飛んでしまう。 一月二八日(土曜日)、柏市内にある某医大付属病院に入院した。二九日から絶食、同日の午後は二リットルの下剤を飲んで腸の中を空にする。三〇日正午に手術室に入った。 手術台に身を横たえると、幅があまりない。たしかに施術中に患者に寝返りなんか打たれても困るだろうから横幅をとる必要はない。身体が少し左にずれていたようで、姿勢を正される。正されながら「オレはやっぱりこういうときだって左寄りなんだぞ」と妙に嬉しくなっているうちに麻酔が効いて意識が薄れていった。 意識が戻ったのは午後四時四五分ごろである。連れ合いが顔を覗き込んでいる。手術にかかった時間は二時間半ほどと聞いた。医師によれば、切除された我がS状結腸は風船のゴムが伸びきったような状態だったとのことだ。捻転して腸が閉塞しているとき湯ぶねに浸かると身体に浮力がついているのを感じた。腸内にガスが溜まっているからである。自分の身体をゴムボートみたいだなと思った。だから風船であれボートであれ「ゴムが伸びきった」というのはよくわかる。消化器官として限界に来ていたのだろう。 それから四日間の絶食をへて、二月四日のお昼から流動食を口にすることができるようになった。いったん切断された腸が、数日後にはつながってまた機能し始めるのだから、医療とは、また身体の復元力とはたいしたものだなと思う。九日に退院する。一二泊一三日の入院生活だった。 手術後の二日間はメスを入れられた箇所がひどく痛かったこと以外はおおむね快適だった。痛みも二日が過ぎると日に日に和らいでいったし。 看護師さんたちが若い人ばかりなのには驚いた。医大の附属病院で看護学校も併設されているから、そこの学生たちの実習の場でもある。看護師が育っていくのに実践教育が必要であるわけだが、ベテランというべき人たちがあまりに少ないのではという気もした。看護師の勤務はハードなので長くは勤められないということがあるように思う。看護の労働現場においても進む非正規化ということでもあろうか。看護師一人につき午前八時から午後四時半は患者五~六人、午後四時半から翌朝八時は患者一六~一八人という配置だという。深夜勤務はやはり辛いだろうな。 この冬、イギリスでは保守党政権の緊縮政策の下すすむ医療現場の荒廃に抗して看護師たちがストライキで闘っている。ストで人が死ぬという政府の宣伝に、そうではなく人びとが死んでいくからストに立ち上がらざるを得ないのだと看護師たちは反論する。反論のほうが正しいだろう。 (『伝送便』2023年3月号16ページ) 断腸の記 ~『伝送便』誌3月号寄稿 : 酔流亭日乗 (exblog.jp) ////////////////////////////////////////////////
映画『チップス先生』と歴史家ホブズボーム
文中、いくらか強がって書き流した箇所がある。この機会に正直に書き足しておきたい。半ば過ぎ、 <手術後の二日間はメスを入れられた箇所がひどく痛かったこと以外はおおむね快適だった。痛みも二日が過ぎると日に日に和らいでいったし。> と書いたところである。 入院生活が全般に「おおむね快適」であったのはその通りだ。しかし、手術直後の二日間の辛かったのなんのって。じっとしていれば痛みにどうにか耐えられる。しかし、お手洗いに行くにはベッドから起き出さなくてはならない。上体を起こすとき痛い。それから咳をしようものなら大変。だから咳き込みそうになると唾を飲んでなんとかこらえようとする。が、うまくいかないときもある。ゴホッ。身体に響く。痛い。 手術の翌日、レントゲン撮影があった。撮影室は1階で、外来患者もたくさん撮影を受けに来る。6階にある病室から車椅子で撮影室に向かう。看護助手の女性が付き添ってくれた。 ベッドから車椅子に移るのも一苦労して、エレベーターで1階に降り、撮影室に入る。レントゲンは立った状態と寝た状態、両方を撮る。車椅子から立つとき撮影室の女性看護師が手を貸してくれるのになかなか立てず、 「昨日手術を受けたばかりで痛くて・・」 と私は思わず泣き言を口にした。 けれども患者がどんな状態かなんて看護師は熟知しているのである。言わずもがなのことであった。 意識朦朧たる二日間が過ぎて、3日目の午後から痛みは徐々に和らいでいった。2月2日だった。午後2時過ぎ、病床のTVでNHKBSプレミアムを点けてみた。このチャンネルでは平日の午後1時から映画を放送している。一昨年秋に入院したときも、その時間帯に映画をよく視た。そのときはやはり腸捻転の、しかし手術ではなくて内視鏡による整復治療で別の病院に入院していた。 ピーター・オトゥール、あの『アラビアのロレンス』(デビッド・リーン監督、1962年イギリス)でロレンスに扮した名優オトゥールが、ロレンスのときよりちょっと老けて、画面の中にいる。彼とイギリスの女性歌手ペトラ・クラークが共演した『チップス先生さようなら』(ハーバート・ロス監督、1969年英米合作)がその日放映されていたのである。 しまったと思った。『チップス先生・・』は高校生のとき映画館で観て感動した記憶がある。だから、入院する前、1月のうちに、同映画の放映が2月にあるのをインターネットで知って視るのを楽しみにしていた。ところが2月の上旬ごろ放映とだけ憶えて、それが2日だと確認しなかった。そうして1月30日の手術が終わってからの朦朧とした二日間に映画のことは意識から飛んでしまっていた。TVを点けたとき映画はすでに後半だ。もう、どうしようもない。 病院に持って行った本は、古書で手に入れた『20世紀の歴史』(エリック・ホブズボーム著、ちくま学芸文庫)上下2冊のうち上である。20世紀最高の歴史家とも評されるホブズボーム(1917-2012)は、ポーランド系ユダヤ人の家庭で生まれ(生国はエジプト)、1933年から亡くなるまでイギリスで暮らした。映画『チップス先生さようなら』の時代は主に二つの世界大戦の間で、主人公チップスはイギリスの全寮制高校の教師であり寮長だ。するとホブズボームの青春時代はチップスの教え子たちのそれと時代がかさなるのである。やがて第二次世界大戦が始まり、イギリスは連日ドイツ空軍の空襲にさらされる。ペトラ・クラーク扮するチップス夫人は得意の歌唱で人びとを励ましているさなかにドイツ軍機が投下した爆弾で命を落とす。 映画を最初から視ていればホブズボームの本を、著者の生きた時代をいくらかは視覚的にもつかみながら読むことができたろうに、これは入院中の唯一の痛恨事である。 なお私がホブズボームを手にとる気になったのは、一昨年出版された『労働組合とは何か』(木下武男著、岩波新書)の19世紀ヨーロッパ労働運動の歴史が叙されるところでホブズボームの著作から何度か引用があるのを読んだからだ。また吉本隆明によれば、戦後日本で<将たる器を持った>オルガナイザー(運動の組織者)は谷川雁・武井昭夫・島成郎の3人だということだが、この3人のうちで私がじかに謦咳に接したことがあるのは晩年の武井昭夫(2010年死去)だけ。その武井が、現存した社会主義に批判は持ちつつもマルクス主義者としての志操を揺るがさなかった存在としてホブズボームに言及しているのをどこかで読んだ記憶があるからだ。 木下武男『労働組合とは何か』書評 ~『伝送便』掲載 : 酔流亭日乗 (exblog.jp) 大著『20世紀の歴史』からは、自身も属していた左翼陣営がファシズム打倒に決定的役割を果たしたことへの著者の自負と、しかし闘いようによってはファシズムをあそこまで肥大させはしなかったという自省とが併せて窺われる。 (つづく)
by suiryutei
| 2023-06-02 08:08
| 文学・書評
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