新人事制度 大阪での報告①~③
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昨日からの雨が続いている。先ほど朝7時台のNHKニュースを視ていたら、「手賀沼が氾濫危険水位に」というテロップが画面に流れた。我孫子市に越してきて45年たつが、手賀沼が氾濫の危険なんてこれまで記憶にない(2019年秋の台風のときはどうだったかな?)。手賀沼というのは、千葉県の柏市と我孫子市の境に水を湛えている。 昨日から今朝にかけての雨量は、6月ひと月分のそれに達したという。雨の月6月の一か月分が一日半で降ったのだから、ただ事ではなかった。 雨音を聴きながら、昨日の更新記事の続き、『もりきり五勺』(【いてんぜ通信】2023年夏号への寄稿)の後半をUPします。 もりきり五勺(上) ~【いてんぜ通信】2023年夏号寄稿 : 酔流亭日乗 (exblog.jp) ![]()
退院して12日後の2月21日、外来患者として診察を受けに行った。レントゲン撮影と主治医による問診。手術後の経過は悪くないようである。切除されたS状結腸は41㎝にわたる。手術の直後、麻酔が効いて私の意識はまだなかったとき実物を見せられた連れ合いは「ホルモンはもう食べられない」と思ったと後で言った。 主治医が言うには「お腹に大きな空洞ができたよう」。実際、退院してしばらくは、いや今でも、体内に残った腸は居場所が定まらないような感じだ。しかし、これは時間がたてば落ち着いていく。 問題は別のところから現れた。腸の手術に絶対に必要というわけではないが、いい機会だからと勧められて、1月19日に胃の内視鏡検査を受けた。その検査で癌が発見されたというのだ。 本通信前号寄稿『豆腐で飲む』では、その検査のことは、こう書いた。 「・・まず先日の胃カメラ検査の結果は悪くないようであった。胃にポリープがあるが良性だ。・・」(【いてんぜ通信】2023年春号10ページ上段) その文章を書いたのは1月下旬であり、その時点ではたしかにそう説明を受けていたのである。ところが、内視鏡を通じて肉眼では良性と見えたポリープの一部を削り取って、顕微鏡で検査したら癌が出来ているのが確認されたという。手術の直前に検査結果がわかったけれども、手術前には伝えないほうがいいと配慮された。「胃の検査でちょっと良くない傾向が出ています」と言われたのは退院する日の朝である。「詳しくは外来でいらしたときに・・」。 胃の検査で「良くない傾向」とくれば、癌かなあとはそのときに薄々察しがついた。 さて2月21日に、今度ははっきり癌だと言い渡されたときの気持ちは複雑であった。前述した次第で、ある程度覚悟はついていた。もうひとつ、斉藤幸平の新著『ゼロからの資本論』の書評めいた記事を私は『伝送便』誌2月号に書いた。その全文は『豆腐で飲む』に挿入してある。資本の下での<疎外>について斎藤を批判して、こう書いたのである。 「・・・そして著者はこの<疎外>の原因を資本の専制による『構想』と『実行』の分離に求める。つまり『構想』は特定の資本家や現場監督が独占し、労働者は『実行』のみを担わされるわけだ。私は郵便労働者として四〇年以上『実行』ばかり担わされてきたから、単調な労働の苦痛は著者以上に身に染みているつもりだが、著者の説明にはちょっと違和感を持つ。なるほどそうした精神的労働と肉体的労働の分離も疎外であるには違いない。しかし、労働者が疎外感を覚える第一は、自らの中身を資本に吸い取られていく(搾取される)そのこと自体ではなかろうか。・・(略)・・私の場合で言えば、『構想』から排除されて『実行』ばかりやらされたことよりも、深夜不眠の労働で自分の健康が目に見えて磨り潰されていったことだ。・・」(【いてんぜ通信】2023年春号8ページ下段~9ページ上段) 豆腐で飲む ~【いてんぜ通信】23年春号寄稿 : 酔流亭日乗 (exblog.jp) 活字になった自分の文章を読み直していくらか気が咎めたのは、「深夜不眠の労働で自分の健康が目に見えて磨り潰されていった」と書いたのはちょっと大袈裟だったかなということだ。何だかんだ言っても、私は現役中に大きな病気はせず郵便局を61歳まで勤め上げたのだから。しかるに、ここへきて腸がくり返し捻じれて切除手術を受けた上、その直後に今度は胃癌の宣告だ。退職して何年も経っているとはいえ、現役時代の「深夜不眠の労働」の蓄積によるダメージが顕われたと考えるのはそれほど無理なこじつけではない。私はハッタリを書いたのではなかった。どうだい、自分が書いたことを自分の身体で証明したぞ。 そう考えて私は心中ひそかにニンマリし、けれどもすぐ、癌を宣告されて喜ぶ奴がいるだろうかと思い直した。 <疎外>という言葉は人によって色々な使われ方をするようである。そもそも翻訳の問題がある。ヘーゲルやマルクスの原著におけるその概念に疎外という漢字はどこまで接近しているのだろうか。だから、以下は私流の解釈だ。 人間が外部に創り出したものが、人間の持っている力を吸収して、そして今度はそれが人間を支配する。そういう状態を<疎外>だと私は理解する。人間が神を創ったにもかかわらず、宗教においては人間の本質が神に吸収され、この神に人間は従属してしまう。そう述べたのは19世紀ドイツの哲学者フォイエルバッハだ。フォイエルバッハのこの宗教批判をマルクスは資本と労働の関係に応用した。資本とは人間の労働の所産である。労働者が労働すればするほど、その労働が産み出すものは資本として蓄積され大きくなり、労働者を支配する。労働における<疎外>の根本はここにあると思う。 もっとも、いつか資本が廃絶され、搾取の無い社会が到来したとしても、分業による労働の細分化とか単調さという問題は残る。搾取が根本だという一本鎗では、労働のあり方そのものを見つめるということがどうしても弱くなってしまう。私の斎藤批判は言葉足らずであったことは引き続き認めなくてはならない。<疎外>とは何かを考え続けることは、我が残生の課題の一つである。 一陽来復
再入院は3月8日、手術は翌9日に受けた。手術といっても、癌はまだ初期なので内視鏡で切除できる。内視鏡的粘膜切除術(EMR)だ。先端に超小型カメラを備えた電子スコープを口から胃の中に挿入し、生理食塩水を病巣の下の粘膜下層に注入して病変部を浮き上がらせ、その部分を内視鏡の先端から伸びるワイヤーで締め上げる。高周波電流を流して焼き切り、回収する。 内視鏡(胃カメラ)は、1月に受けた検査でもそうだったが、わりとスンナリ喉を通って胃に降りて行った。鎮痛剤を点滴で投与されているからボウッとしているうち、30分ちょっとで治療は終わった。 前回入院したのと同じ病院ながら病棟は違った。6人部屋であるのは同じ。今回のほうが病室に重症の人が多く、3人は自力ではベッドから出られない。
ますらをと思へる我やいさらひに襁褓(むつき)を当てて便にそなふる
上は吉野秀雄(1902-1967)の歌。吉野は結核、肺炎、痔疾、喘息、糖尿病、リューマチと生涯さまざまな病気に苦しみ、本人のみならず二度の結婚のうち最初の夫人は胃癌で夭逝したから、この歌人には病床で詠んだ歌が多い。歌中<いさらひ>とは尻の古語だという。襁褓(むつき)はおむつのことである。どのような状況か説明は不要だろう。 私がいた病室は3台のベッドが左右二列に並ぶ。私は一列の真ん中に寝ていて、両隣の患者はそうした状況だった。 看護師たちの昼夜を問わぬ看護・介護には頭が下がった。前回の入院では看護師たちが若い人ばかりなのに「こんな小娘ばかりでいざというとき大丈夫かしらん」と、正直に言うとちらり思わぬでもなかった。ところが、看護師たちの働きぶりとはそんなものではない。ちらりとでも「小娘」なんて言葉が浮かんだのを私は恥じなければならない。ある晩、「まだ居てよ」と甘えかかる高齢の患者(この人も自力ではベッドから出られない)に「あとは夜勤が来るから。私、今日は朝8時からいるのよ」と若い女性看護師があやすように話すのを耳にしたのは夜7時過ぎだった。彼女はその日、勤務に就いてすでに11時間も経っているわけだ。人をケアする仕事の世界の労働の厳しさ、人員の不足は深刻だ。防衛費(軍事費)に注ぎ込む金は医療はじめ民生にこそ回せと切に思う。 3月15日に退院した。今回は7泊8日の入院生活だった。 手術で切り取った病変部は顕微鏡で精しく病理検査され、癌が完全に取りきれたか、リンパ節転移の可能性があるかどうかがこれでわかる。その結果を聞きに行ったのは3月28日。転移や再発の可能性は低いということであった。ただ今後も半年なり一年に一度は内視鏡検査を続けたほうがいい。半年後の10月4日に予約を入れた。 退院してからも、この検査結果を聞くまで私は酒を封印してきた。3月8日の入院から数えて3週間近くも禁酒を続けたことになる。28日の夜その禁を解いた。酒の銘柄は、入院前から一升瓶ごと冷蔵庫に寝かせてあった〔萬歳楽〕の純米。石川県鶴来町の酒である。盛り切りでちょうど五勺入る盃になみなみ注ぐ。 ![]() 胃も腸もまだ回復途中だから、今のところ(この文章を書いている4月なかば)盃は3杯までとしている。【いてんぜ通信】夏号が発行される6月には酒量はもっと戻っていると思う。 (完) ![]()
by suiryutei
| 2023-06-03 08:15
| 文学・書評
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