怖がらなくていいものを「怖がれ」と煽るからこういうことも起きる ～山手線内の「刃物」騒動

昨日の夕方、JR山手線の電車内でこんな”事件”が起きた。

じつは誰も「刃物を振り回して」などいない。ただ、料理することを職業とする男性が、その仕事道具である包丁を2本持っていたというだけの話である。右側の小見出しに「騒ぎで2人搬送」とあるが、刺されたり切られたりして病院に搬送されたのではなく、その場から逃げようとして転倒、どこかを打ったということであるようだ。

一昨年の10月、京王線の車内でナイフで人が刺された事件が実際に起きており、折しも今日はその初公判が行なわれる。車内で刃物を見かければ人びとは過剰に反応してしまうだろう。包丁を持っていた人も、その刃の一部が見える状態であって、本人は座席でうたた寝をしていたというから、不注意であった。

それにしても騒ぎ過ぎである。一週間ほど前、福岡市の地下鉄でも、やはり料理人が包丁を持って乗車したのを見た他の乗客がそれを通報して地下鉄の運行に乱れが出たそうだが、こんなパニックまでは起きなかった。

福岡市地下鉄で「包丁を持った人がいる」　実は料理人と判明（FBS福岡放送） - Yahoo!ニュース

恐ろしいのは、こういう社会心理（？）状態が続いているうちに、たとえば関東大震災のとき起きたような惨事が引き起こされはしないかということだ。

100年前のあのとき、「朝鮮人が井戸に毒を投げた」というデマに踊らされて、約6000人とも言われる朝鮮人が虐殺された。

つい一月ほど前（5月31日）の朝、朝鮮が打ち上げようとした（失敗したが）人工衛星を日本政府が「ミサイルだ、ミサイルだ」と騒ぎ立てたことが思い出される。怖がる必要がないものを政府が怖がれと煽ったのだ。こういうことが今回の「刃物」騒動を過大にしてしまっているのである。

人工衛星をミサイル呼ばわりするのはやめろ : 酔流亭日乗 (exblog.jp)

なお、騒ぎを報じる東京新聞朝刊の囲み記事（一番上に写真を貼り付けました）の左隣りに、画家の野見山暁治さんの訃報が見える。酔流亭は美術のことなんてさっぱりわからないけれど、この画壇の長老には何となく畏敬の念を持っている。ご冥福を祈ります。

野見山暁治さん死去　戦没画学生の遺作に光、美術界を先導　102歳：朝日新聞デジタル (asahi.com)