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昨夜、夕食をすませ、風呂にも入って2階の自室にこもったのは8時過ぎ。 ラジオを点けるとチェロの演奏が流れてきた。NHKFMでは昨日から明後日までの四日間、パブロ・カザルスを特集するという。放送時間はたしか午後7時半から9時過ぎである。今年はカザルスが亡くなって50年にあたるそうだ。なお昨夜酔流亭が聴いたのは、かの『鳥の歌』とかバッハやベートーベンのチェロ協奏曲いくつかなどであった。 さて、せっかく心に沁みる音楽が流れているのだから、眠りに就くまでの間それにふさわしい読書をしよう。そう思って本棚から抜いたのは、この本。 大岡昇平(1909-1988)の1985年一年間にわたる公開日記だ(雑誌『文学界』1085年3月号~86年2月号に連載)。帯というか腰巻き(?)に「最新刊!」とあるけれども、これは購入した1986年当時の話。しっかりした装丁の全283ページの新刊が37年前は1000円で買えた(文芸春秋社)。 書かれた年の現在の日付と同じ頃のページにまず目が行く。8月の章を開いた。大岡は、夏は北富士にある山小屋に暑を避けていた。山小屋と書いているけれども、つまり別荘であろう。近所には武田泰淳夫人だった武田百合子もいた。「武田泰淳去りてより九年、花子ちゃんとの女所帯、新進作家武田百合子といえどもさびしげなり。・・」という記述が見える。「花子ちゃん」とはもちろん、泰淳・百合子の娘である写真家・武田 花のことである。 その百合子未亡人が、富士吉田市のイトーヨーカ堂のレジで行列しているときスリに遭って東京のマンションの鍵やら免許証やらを盗まれたというエピソードから8月の日記は始まる。 そうして同月12日、夜8時過ぎ『水戸黄門』を視ていたら「日航ジャンボジェット機123便遭難のニュース速報あり」(188ページ)。 あの事故は1985年に起きたのだった。<戦後文学の最高峰>がTV時代劇『水戸黄門』を視ていたなんて、ちょっとへええと思う。520人が亡くなった大惨事である。 奇跡的に4人の生存者がいた。その一人が当時12歳の少女、川上慶子さんである。大岡の13日の記述に、こうある。 「・・生存者四人あり。川上慶子さん十二歳を、自衛隊員うしろから、抱えてヘリへ吊り上げるのを見てぞっとした。全身打撲あり、表から見えない内臓損傷あるかも知れないじゃないか。胴をかかえるとは、かっこいいが、むちゃなり。他の負傷者と同じく担架で上げねばならぬ。前衛部隊はいつもああだ。この前の戦争から、兵隊は写真に撮られるために行動する。・・」(189-190ページ)。 さすがにフィリピンの戦地で生死の境目にいた戦争体験者は目の付け所がちがうね。 8月の章は14日の日記までで終わる。14日に大岡は、こう書きつける。 「靖国参拝、一パーセント枠撤廃(防衛費のことだろう=酔流亭)、スパイ防止法の三種の神器と日航事故は、同根なり。高度成長の裏の手抜きの結果、五二〇人の人民の死来たれり。それをまたごまかそうとして、今年の八月十五日の悪夢となれり」(191ページ)。
by suiryutei
| 2023-08-15 09:19
| 文学・書評
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