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『伝送便』11月号には『ウクライナ動乱』(松里公孝著、ちくま新書)の書評が載っている。田中英吾さんが執筆した。田中さんは郵便局で働く労働者だ。 『ウクライナ動乱』は酔流亭も購入して、いま読んでいる最中。田中さんの書評に同感するところが多いので、その全文をこのブログで紹介する。写真の下に写します。 ロシアによるウクライナ侵攻は日本の左派陣営にも深刻な断絶を引き起こした。核戦争の危機さえあるのに反戦平和運動は機能不全に陥っている。この間に私が思ったのは「自分はウクライナのことをあまりにも知らなすぎる」ということだ。かつて私の職場にもウクライナ人がいたことがあるが、どういう事情で日本に来ているのかを考えたことはなかった。ウクライナが南東部に激しい分離紛争を抱えていることを知ったのは二〇二二年のロシアによる侵攻が始まった後である。ドンバス、ドネツク、ルガンスク、クリミアなどの地名が何を示すのか、いったいそこで何が起きているのか、二〇一四年のマイダン革命とは何だったのか、テレビに現れるさまざまな専門家の言葉を一方的に浴びせかけられるが、現地の人々に対する具体的なイメージは浮かんでこない。本書はその疑問に答える「ウクライナ研究者による」初の本格的な著作である。 筆者の松里によると、日本にいるロシア研究者に比べてウクライナ研究者の数は圧倒的に少ないという。松里は二〇一〇年代の半ばにクリミアとドンバスを訪れ、立場の異なる複数の政治指導者にインタビューを敢行し、住民の暮らしぶりを観察している。このことが他にはないリアリティを本書にあたえている。ソ連時代の民族政策についてもわかりやすく解説してある。ソ連解体後、さまざまな共和国が独立したが、各共和国の中に多数の民族が入り交じって生活しており、独立の過程で民族紛争に火がついた。 筆者はウクライナの東部と西部の対立は最初からロシアと欧米の代理戦争だったわけではなく、そもそもはウクライナの国内政治の産物だとする。社会主義から資本主義へ突然転換したにもかかわらず、為政者は経済について無知であり、国民の生活は困窮する。その不満をポピュリズムが吸収し過激な民族主義が台頭する、という筆者の指摘には、旧ソ連領の他の紛争地を研究していたこともあり、説得力がある。貧困や構造的な汚職といった課題に取り組む代わりに、親欧米か親露かというイデオロギー的な対立を導入することで人気を得ようとする手法には、きわめて手厳しい。マイダン革命に対する評価も批判的で、暴力的かつ憲法や議会制度を無視した違法行為であるとする。一方でウクライナ侵攻に至るまでのプーチン政権の動きにも政権の硬直化や劣化を見るなど、辛らつだ。政治は法治主義により社会を安定させ民衆に実益をもたらすためにある、という筆者のポリシーが客観性を担保している。 節目ごとに選挙結果や世論調査の数字を検証し、多数の政治家・活動家・政党の動きを追っていく記述は丹念だ。聞き慣れない地名や人名に面食らってしまうが、巻末にある人名索引で初出時をたどれば見当がつく。オリガーク(新興の大物資本家)の面々、そして各地に生き残っている共産党の盛衰も押さえてあり興味深い。筆者いわく「冒険活劇のような軽妙な日本語」(『読書人』二〇二三年九月二十九日号)で書いたという筆致と、随所に顔を出す辛口でシニカルな警句など、入門書としての工夫もされている。 (田中英吾) ![]()
by suiryutei
| 2023-11-04 08:02
| 文学・書評
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