新人事制度 大阪での報告①~③
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目取真 俊『魂魄の道』読書会における報告の転写2回目は、目取真氏が2000年に発表した「犬が右向きゃ」という文章の中の一部を紹介することから。 ![]() 戦争の体験者にとって、「情緒」や「情念」を抜きに自らの体験を振り返ることなどできはしない。戦場で死んでいった肉親のことを、あたかも医者が患者の死を看取るように冷静に振り返ることなどできるはずがない。飛んでくる砲弾への恐怖や、敵兵を刺殺したときの手のひらの感触、血の粘りや臭い、傷ついた肉親や仲間を見捨てたときの後ろめたさ、自分を強姦した者への憎しみなどは、どれほど時間が経とうと「情緒」や「情念」を殺して「科学的」「客観的」に表現できるものではないだろう。どのように言葉を尽くしても表しえない苦しみや悲しみ。それを内側に抱え込んで生きていく人たちが少しずつ口を開いて語る言葉に耳を傾け、「客観的事実」としての戦争でなく、その人の「生きた体験」としての戦争をきめ細かに聴き、伝えようとする努力があって初めて、戦争体験を継承する出発点に立つことができる。思い上がった学者たちに教えてもらわなくても、血の通った「語り」を通して、民衆は一番大切な「体験」の本質を伝えていくのだ。その積み重ねによって、戦争や基地を否定していく思想も作り出されてきたのだし、政府や御用知識人たちがいかに国家の安全保障を口にしようとも踊らされない知恵を身につけてきたのだ。政府や御用知識人たちにとってもっとも厄介なのは、そのようにして民衆レベルで伝えられていく「体験」を通して、反戦や厭戦の心情や思想が広がり、それが運動組織の働きかけによって抵抗運動へと発展していくことであり、それによって安保政策や基地政策が円滑に進められなくなることなのだ。 (目取真俊『犬が右向きゃ』〔うらぞえ文芸〕第5号、2000年)
![]() (この本に収められていたのを引っ張り出した) 長い引用ですが、目取真文学の核になるものがここに込められていると思います。 この文章が書かれた2000年当時、沖縄は革新の大田昌秀知事(1990-1998)から替わった稲嶺恵一保守県政(1998-2006)でした。高良倉吉・琉球大学教授ら県政ブレーンがそのころ発表した提言〔沖縄イニシァティブ〕は「情緒に訴える陳情型議論では何も解決しない。問題は安全保障の枠組みをどうするかだ」(雑誌『アエラ』1996年6月21日号掲載の高良倉吉インタビュー記事見出し)といった問題意識に貫かれたもの。そうして平和祈念資料館の展示が改竄されようとしたし(県民の猛反発で未遂)、1996年から始まっていた<平和の礎>への朝鮮半島出身者の刻銘作業(洪鐘泌=ホンジョンビル韓国明知大学教授に調査を委託。2004年までに423名が刻銘される)も2004年に中断されます。 上に一部を引用した目取真文はそうした動きへの批判として書かれたものです。『魂魄の道』に収められた5編の小説はそこに込められた思いの実践ではないでしょうか。 5編は2014年から22年にかけて書かれています。2004年から始まった辺野古ゲート前座り込みが本格化したのが2014年です。それからずっと、目取真氏は辺野古の海でカヌーを漕いで海上抗議をし、ゲート前の座り込みに参加してきた。また高江では2015年ごろからヘリパッド建設への抗議行動が激しくなる。目取真氏はそこでも行動の先頭に立った。派遣されてきた大阪府警の警官に彼が「土人」呼ばわりされたのは2016年10月のことです。当時の彼の日常はこうです。 「高江での抗議行動は、ふだんは午前7時集合だった。毎朝5時半には起床し、車で1時間近くかけて高江に行き、午後5時頃まで活動する。帰りは疲れて途中で車を止め、仮眠をとることも多かった。帰宅後はシャワーを浴びて洗濯、夕食、撮影した写真や動画の整理、プログの更新に追われる。寝るのは午前1時頃だった。」 翌年、2017年夏の辺野古での日々は 「午後4時に海上行動を終えて、カヌーや用具を洗って片づけ、自宅に戻るのは午後6時前だ。それからシャワーを浴びて洗濯をし、軽く筋力トレーニングをする。海で撮影した写真や動画を整理してブログを書くと、午前零時を回っていることが多い。インターネットでサイトを見て午前1時や2時に就寝。翌朝は6時頃に起きる。」 (どちらも目取真俊『ヤンバルの深き森と海より』影書房、2020年刊から引用。前者は373ページ、後者は400ページより) ![]() 前回講座でコピーが配布された李英哲さんとの対談記事(朝鮮新報2023/12/11掲載)の中で目取真氏は「10年に1冊なんて情けない」と述べていますが、所収の一編一編がこうした闘いの日々の中で書かれていることをまず受け止めたいと思います。 (つづく)
by suiryutei
| 2024-03-24 07:54
| 文学・書評
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