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昨日の更新記事で触れた映画『乱れる』(成瀬巳喜男監督、1964年公開、9月5日午後にNHKBSで放映)の舞台は静岡県清水市の酒屋であった。 僅か半年しか夫と暮らさなかった未亡人(高峰秀子)が、敗戦の年に夫が亡くなってから18年間、商店街にある小さな酒屋を切り盛りしてきた。 11歳年下の義理の弟(加山雄三)と彼女との悲恋である。義弟は義姉への思いを募らせるけれども、彼女は(義弟をにくからず思いながらも)それを受け入れない。 酒呑みである酔流亭は映画の本質的なところより脇のほうに目が行ってしまうのだが、この酒屋には角打ちのコーナーが無かった。 そのころ(1970年代くらいまで)街の酒屋には大抵、店の隅のほうにカウンター代わりに板が差し渡されていて、そこでコップ酒なんかを飲むことができた。酒のアテには、着色料たっぷりの真っ赤なイカの燻製なんかが楊枝に刺されてセルロイドの瓶に詰まっていたものだ。 その店がそういう角打ちをやらないのは、店を切り盛りしているのは未亡人であり、女性としては店の中で酔っ払いが管を巻くようなことが万一あっては困る、ということであったろうか。 新興のスーパーマーケットに押されている苦境を乗り切るため、義弟は店をスーパーマーケットにしてしまおうと思い立つ。実の姉の一人の嫁ぎ先は静岡市の銀行員で、融資の目途も立ちそうだ。スーパーに衣替えした暁には、義弟は、自分が慕う義姉に重役になってほしいと考えている。 「戦後の苦しい時期を、お義姉さんのおかげでやってこれたんだから、それが当たり前じゃないか」 と。 しかし、当の義姉は身を退いてしまう。夫に先立たれた嫁など婚家にとって所詮他人ではないかと思うし、義弟以外の周囲の目もそうだ。 そうして二人は破滅への道を進んでいくのだが、ネタバレになってしまうので、この先は書かない。 それにしても、もし義弟の思い通りになって、銀行から融資を受けて酒屋をスーパーマーケットに衣替えするのに成功したとしたら、どうだったろうか。 義弟は店の若旦那として普段から周りの商店主たちと親しく付き合っている。肉屋や乾物屋や菓子屋であるこれら店舗は、何でも揃っているスーパーマーケットがすぐ近くに出来たら確実に駆逐されてしまうだろう。 すでに商店街の中には別のスーパーが経営を始めているのだから、義弟は競争に勝って生き残るために品物を揃え、安く売らざるを得ない。今までいくら親しくしてきたって、隣人に手加減するわけにはいかなくなる。 そのような散文的な結末にしないためにも、二人の破局は避けられなかったか。 映画の時代である1963~4年といえば、1955年に始まる戦後の高度成長はレールの上を順調に走っていたころだ。しかし、そのレールに乗れずに滑り落ちていく人もいた。東京都下国分寺市の商店街で小さな菓子屋を商っていた我が家なんかもそうであった。 成瀬巳喜男監督って、小津や溝口や黒沢の陰に隠れているようで、どうしてたいした映画作家だと思う。
by suiryutei
| 2024-09-08 06:48
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