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ハン・ガンさんの小説『別れを告げない』に出てくるインコに、ちょっと前に読んでいた『水車小屋のネネ』(津村記久子著)を思い出した、という話を三日前(14日)の更新記事に書いた。 ネネはインコではなく、オウムの一種であるヨウムという鳥の名前。人間と会話もどきをやってみせるのが、『別れを告げない』中の2羽のインコーアマとアミーのうちのアミと似ている。アマのほうは人語を真似ることはしないが、ハミングが上手い。 『別れを告げない』では1948年に起きた済州島4/3事件の記憶が掘り起こされていく。同事件とは米軍政下で(つまり朝鮮に進駐してきた米軍の使嗾および黙認の下で)韓国軍・警察・民間右翼によって引き起こされた大規模かつ凄惨な虐殺である。当時約30万人だった島民の三分の一から四分の一が殺された。語りてのキョンハの親友であるインソンの両親は、そのサバイバー(生き残り)であった。 後半、生き残った人が自分の見聞きしたことについて重い口を開く場面がある。その語り口に似ている会話体を前に読んだ気がするなあと思い当たるのは、目取真俊さんの小説だ。たとえば『眼の奥の森』(2017年刊)において、幼友達の小夜子を強姦した米兵士たちに向かって独りで復讐に立ち上がった少年セイジが、老いてからも心の中で小夜子に向けて呼びかける島言葉(しまくとぅば)。 それもそのはずで、『別れを告げない』の訳者あとがきによれば、済州島の言葉は標準韓国語と大きく異なっているので、翻訳した斎藤真理子さんは「・・朝鮮語の古層が残っているともいわれる済州語を生かして訳すにはどうすればよいか」(323ページ)思いあぐねた挙句「力を借りるとしたら、済州島との共通点も多く、自分もかつて四年暮らした沖縄の言葉以外思いつかなかった」(同)ということである。 なお、原書ではハン・ガンさんは、済州語をそのまま用いては本土の読者に理解できないので、可読性を損なわないよう本土の言葉と済州島のそれとの「中間点に収まるよう」に配慮したという。こういう配慮は目取真俊さんも沖縄でも周縁の地域での言葉で会話体を作るときに行なうと、ご本人がどこかで語っていたと思う。 斎藤真理子さんの訳者あとがきには大事なことがたくさん書かれている。第二次大戦末期、沖縄戦のあと日本軍は済州島をアメリカ軍との最終決戦の地と定め、将兵8万人が結集できる巨大軍事要塞化を進めた。ソ連参戦と原爆投下によって日本の降伏が早まったために間一髪、玉砕の島になることを免れた。そんなことも訳者あとがきを読んで酔流亭は知った。沖縄に続く凄惨な戦場になっていたかもしれないのである。日本の罪深さに改めて背筋が寒くなる。
by suiryutei
| 2025-05-16 08:27
| 文学・書評
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