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新人事制度 大阪での報告①~③
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今年の労働者文学賞応募作品のうち小説/評論・ルポルタージュ部門について酔流亭が書いた選評を転写します。 ![]() 雑誌『労働者文学』No.94(今年7月28日発行)に、文学賞入選作品および佳作とともに掲載されたもの。小説/評論・ルポルタージュ部門の選考委員は鎌田慧、楜沢健、村松孝明の各氏に酔流亭の4人。それぞれが選評を書いていますが、このブログでは酔流亭執筆のそれのみを全文写します。 今年は小説部門に31編、評論・ルポルタージュ部門に7編の応募がありました。 2000年から2023年の間に日本で進んだ就業人口の移動では、製造業・建設業の就業者が436万人減少し、いわゆるサービス業で808万人増えました。とくに医療・福祉(多くは介護)と運輸業で482万人増えています。ブレイディみかこさんが数年前に新聞コラムで使った「ケア階級」という言葉を思い出します。それを彼女はこう述べていました。 「医療、教育、介護、保育など、直接的に<他者をケアする>仕事をしている人々のことである。今日の労働者階級の多くは、じつはこれらの業界で働く人だ。製造業が主だった昔とは違う。コロナ禍で明らかになったのは、ケア階級の人々がいなければ地域社会は回らないということだった。」(朝日新聞2020年6月11日朝刊) そしてサービス業は、非正規雇用が多い・労組による組織化が進んでいないということも理由でしょうか、製造・建設業に比べ平均年収が90万円も低いのです。この20数年間の就業人口の移動は貧困化を伴って進んできたわけです。 あまり文学的ではない数字を冒頭から挙げてしまいましたが、今年も応募作品はこうした世相を反映していました。介護労働の現場に題材をとった作品、非正規雇用の働かされ方の理不尽を訴える作品が少なくありません。障碍や引きこもりを扱った作品も目に留まります。障碍を持つ人が働き続けることが難しく、引きこもってしまうのは労働社会の息苦しさが一因です。社会の動きが感度よく映し出されているのは労文賞応募作品群の優れた点だと思います。 最終選考に残せなかった中で印象に残った作品をまず挙げると、小説部門では 『痴れ者提灯行』福井たかひろ 溶接の仕事をする派遣労働者(年齢は40前後か)が、職場に新しく入ってきた少し年上の女性作業員にストーカーだと思い込まれます。作者の言葉の使い方は凝り過ぎの気がするものの、構成、文章は悪くありません。ただ、せっかくの筆力が後半は悪滑りしていきます。性の問題を扱うのが悪いのではありません。品位が無いのが不快。非正規雇用労働者の日々がいかに惨めかを呪詛するのが労働者文学だとの思い込みがもしあるとすれば、ちょっとちがうのではないでしょうか。 『終らない階段』高岡啓次郎 作者は『船底の黒猫』という作品が2019年に佳作に選ばれました。今作もよく練れた文章で読者を引き込んでいきます。労働者文学賞応募作には珍しいホラー仕立て。ただ、主人公が悪夢にうなされ続けたことや疲労が甚だしかったことは、作業現場の換気が悪かったということだけで説明できるでしょうか。エンタメ性が増したぶん話の運びがやや作為的になってしまったのでは。 『四月の雨』姫村純夫 異動した先の職場に溶け込めず悩む中年営業マンの苦悩が丁寧に描かれています。袋小路のまま終わらせていいのだろうか、と思いました。 『怪物』鈴木健司 主人公は放課後デイサービスの施設で働く若い女性。以前は中学教諭でした。発達障害があり施設に通う小学生の女子にやはり施設に通う高校生男子が暴力をふるっているのを目撃して止めに入ったところ、彼女も暴力を振るわれます。題名の「怪物」とは、その暴力を振るった男子及びその母親のこと。むずかしいテーマを扱っているだけに、非和解的な結末でいいのだろうか。発達障害への偏見を助長する懼れはないでしょうか。 『今日は明日じゃない』我妻許史 一人称でよくまとまっています。コロナ禍も反映してこじんまりしていますが、私個人としてはその小宇宙になかなか惹かれました。 評論・ルポルタージュ部門では 『青春のアリアドネの糸』日野笙子 「群馬の森」公園内に建っていた朝鮮人追悼碑が去年2月、群馬県によって不当にも撤去されました。作者はこの暴挙の報道(おそらくTBS『報道特集』2024年2月17日放送でしょう)を目にしたところから筆を起こし、ご自身の若い頃の追想が挟まります。関東大震災の折り行商中の被差別部落の人びとが朝鮮人と間違われて虐殺された福田村事件を描いた映画にも触れる。ご自身について語られていることは誠実な述懐だと思います。ただ評論あるいはルポルタージュとして書くのであれば、テーマ(朔太郎、朝鮮人追悼碑)そのものにもっと迫ってほしい。<アリアドネの糸>とは難問を解決する鍵のようなもの。その前の青春とはご自身のそれでしょう。テーマが二の次になってしまったのでは。 『中島みゆきの詩の思想』辻 武比古 中島みゆきの詩(歌詞も含む)をプロレタリア詩として読むという離れ技をやってみせた力作。中島みゆきを論じる以上、彼女の詩歌からの引用・紹介は不可欠にしても、他からの引用(アラン、シモーヌ・ヴェイユ、カミュその他)も多い。評論の構成としては風呂敷がひろがり過ぎたのでは。私も中島みゆきの歌が好きなので、論旨にはおおいに共感しました。 『2024年11月ハノイ・マラソン大会参加記』福田玲三 マラソン大会に参加するため外国にまで行こうという人が、その外国に飛ぶ飛行機の搭乗口まで車椅子を用いたという冒頭の場面、これは巧まずしてのユーモアでしょうか。100歳を超えて海外のマラソンに挑戦するというとてつもない偉業は文学賞の次元を超越します。 最終選考に残った6編について 『ヘルプマークさん』朝吹ミチル 去年の応募作『都会のメロディー』は会計年度任用職員という不安定な働きをする中で破れた恋愛の切実さに惹かれました。今作も切実です。障害によって受けてきた差別、働けなければ陥る他ない貧困。私の身内にもこの作品の主人公とほぼ同世代の統合失調症の女性がいるので他人事に思えませんでした。ただ、自分の眼から周囲を見るだけでなく、そういう自分を見る他者が作品の中にいればよかったのにと惜しまれます。たとえば母は自分を追い詰めるだけの存在のように描かれていますが、夫が30代で亡くなり、年金生活の中から主人公に仕送りを続ける母親だってラクではないはず。そんなこと他人に言われるまでもなく承知? しかし、書くというのはそういう批判も浴びることです。筆力があるのだから、これからも書いていってほしい。 『にぎやかな水』中沢正機 主人公は水道料金徴収員です。水道といえば公共サービスですから役所の水道課なり水道局の管轄ですが、滞納世帯には戸別訪問してから料金を徴収、それでも払ってくれなければ給水を停止するといった作業はアウトソーシングされて、民間の事業所が請け負っています。その業務の苦労が、また滞納世帯の生活ぶりが具体的な記述から覗われます。本当に貧しくてガスも水道も停められた一人暮らしの老人もいれば、ズルして料金をごまかしている富裕層もいる。それに対する主人公の感情の人間的な起伏が軽快な筆致から伝わってきます。 『看護助手』芹田晃治 主人公も若い新人女性看護師に「芹さん」と呼ばれていますから、ほぼご自身の体験に基づく作品と思われます。親子ほど齢の離れた、その看護師との掛け合いみたいな会話が活き活きしています(看護師のしゃべりが面白い)。インシデントとかステルベンという言葉は医療現場では日常的に使われているのでしょうが、説明が欲しかったところ。ネットで調べたら、インシデントは医療行為の過程で発生する予期せぬ出来事、ステルベンは患者が亡くなったことを指すそうです。自殺した患者の生前を指して「幽霊が幽霊になる前の・・」と表記した箇所などは、幽霊を見たわけでもないのに、と初読ではちょっと抵抗がありました。再読してキズが見えてくる作品と、逆に面白さに気づく作品があります。本作は私にとって後者。初めは見落としかけましたが、改めて読んで入選を諒とします。 『おめさん、出世するよ』隆延春賀 主人公の男性(40歳前後)は地方都市(新潟)の出版業界でキャリアを積んでいたのですが、出版業不況のあおりをうけて介護の仕事(デイサービスのヘルパー)に転職します。この選評の冒頭で述べたような雇用社会の変容が作品に反映しています。主人公と利用者の会話に出てくるプロ野球選手の名前から、時代設定が2013年ごろであるのがわかりました。介護労働が詳しく描写されているし、なかなか正規雇用にせずに有期雇用で安く働かされている状況も覗われます。一方で作中の会話や人間造形がやや類型的なのが惜しいか。 『夜のパレード』有原野分 舞台となる工場は24時間稼働しており、昼勤と夜勤の交代制になっているということです。主人公ら夜勤組が就労するのが午後7時なのに昼勤は「午後6時になると完全撤収するからすれ違うことは滅多にない」とも書いてあります。すると24時間稼働と言いながら午後6時から7時までは誰もいなくなってしまうのではありませんか。いきなり重箱の隅をつつくようなことを言いましたが、やはり24時間稼働の郵便局内勤を40年間やってきた私はこういうところについ目が行ってしまいます。主人公が大学進学を機に大阪に出てきてから引きこもりになる、その動機もいささか薄弱に感じました。初めての一人暮らしから来る孤独くらいで、そうなってしまうだろうか。人それぞれとはいえ。いっぽう、深夜労働の辛さには共感します。日本人労働者と中国人労働者の賃金格差、派遣会社による悪質なピンハネぶり、同僚とのテンポのよい会話は無理なく描かれ、引き込まれました。初めに不満を述べたにもかかわらず、応募作中で私が一番惹かれた作品です。 『中島飛行機を巡る朝鮮人連行強制労働』嶋田道雄 評論・ルポ部門から最終選考に残った唯一の作品。ゼロ戦の生産で有名な中島飛行機の主力工場は戦前から戦中、群馬県の現太田市と現大泉町にありました。その建設や、工場に資材や労働者を運ぶ鉄道の工事には朝鮮から連行されてきた人たちが大勢投入され、過酷な労働を強いられます。その実態を追ったルポルタージュです。作者は去年応募作(『熊谷での関東大震災朝鮮人犠牲者供養塔建立を巡る人々と慰霊に生きた矢野泰助の生涯』)でも朝鮮に対する日本の加害に迫っていました。このテーマになぜこだわるのか。ジャーナリスト林えいだいからの影響が冒頭に明かされます。林えいだい(1933―2017)も朝鮮への日本の加害の問題を生涯追い続けた人でした。彼の生涯を描いたドキュメンタリー映画『抗い 記録作家林えいだい』(2016年)の上映会を作者は地元の熊谷市と本庄市で2022年に二度開催したそうです。その映画は私も試写会で観て感銘を受けました。本作の叙述は主に1983~4年に行なった調査に拠っており、その調査が地道で誠実なものであったことは詳しい記述から覗われます。持続する志に敬意を持ちます。詳しすぎて煩瑣になってしまった箇所もあり、西暦のあと律儀に元号も表記しているー1917(大正6)とか1927(昭和2)とかーのは、読者の便宜を考えてのことでしょうが、不要では。近代日本のアジアへの加害において天皇制が果たしてきた役割を考えるなら、天皇制とつながっている元号は、使用をむしろ拒むべきと思います。 ※去年(2024年)書いた選評も参考までに 労働者文学賞2024小説部門、評論・ルポ部門の酔流亭執筆「選評」 : 酔流亭日乗 ![]() ![]()
by suiryutei
| 2025-08-04 08:11
| 文学・書評
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