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今年6月に邦訳が出たばかりの小説『ジェイムズ』(パーシヴァル・エヴェレット著,河出書房新社)は掛け値なしの傑作だと思う。 どういう作品かというと、マーク・トウェイン『ハックルベリー・フィンの冒険』のスピンオフみたいな小説だ。『ハックルベリー』では主人公の少年ハックはミシシッピの大河を筏に乗って下っていく。一緒に旅をする相棒が黒人逃亡奴隷のジムだ。 そのジムは、きちんと名乗ればジェイムズである。彼が小説『ジェイムズ』における語りてであり、主人公だ。 いつかちゃんとした感想を書いてみたい。しかし、今日述べるのはこの作品のことではない。 『ジェイムズ』が素晴らしかったので、そこからこの傑作が派生したところの『ハックルベリー・フィンの冒険』もいま読み始めている。題名だけは知っていても、まだ読んではいなかったのだ。『ジェイムズ』も『ハックルベリー・フィン』も連れ合いから借りて読んでいる。 ハックとジムは、ミシシッピ川を下っていく途中、いかがわしい男2人としばらく行を共にすることになる。1人はフランス国王の末裔を自称し、もう1人も自分はフランス貴族の成れの果てだと称する。もちろんデタラメであって、正体は詐欺師だ。 この連中の乱行やまき散らす噓八百にハックもジムもうんざりして、2人が居眠っているときハックは、国王なんていう連中がいかにろくでもないかの例として、ボストン茶会事件のことをジムに話す。 アメリカ合州国がイギリスからまだ独立する前の1773年、のちに合州国を構成することになる植民地側の急進派が、ボストンの港に停泊していたイギリス商船を襲って積荷の茶を海に投げ捨てたのがボストン茶会事件だ。植民地支配に抗する行動だが、仕掛けたのは植民地側(のちの合州国)である。変装して先住民の仕業であるように見せかけようともした。 ところが、ハックはそれ(積荷の茶の投げ捨て)をイギリス王が命令してやらせたかのように話すのである。 「・・ヘンリーのやつがこの国にけんかを売ろうと思いついたとき、どういうやり方で始めたと思うー予告でもしたかーアメリカにもチャンスを与えたか? そんなことするもんか。やつはいきなり、ボストン港内の船に積んであったお茶を全部海に投げこんでから、独立宣言を突きつけて、くるならきてみろとぬかしやがった。・・」(岩波文庫『ハックルベリー・フィンの冒険』上巻274ページ) 当時のイギリス国王はジョージ3世であったのに、ハックはヘンリーなんて言い間違えているし、上の引用に続いては、時代の違うワーテルローの戦いのとき(1815年)の指揮官ウエリントン公爵の名なんかも出てくる。そもそも「独立宣言を突きつけ」たのはイギリスではなくアメリカのほうだ。この少年の歴史についての知識が怪しいことは読者にわかるように書かれている。 自然児であって学校になんか通っていないようなハックは、周囲の大人たちが話すのを聞きかじってきたのではないだろうか。すると、歴史認識が怪しいのは、ハックではなく、彼の周りの大人たちだということになる。 当時のアメリカ人たちに限らず、そういうことは多いのではないか。歴史を自分に都合のよいようにー仕掛けてくるのはつねに相手側であって自分たちは受け身であったというようにー語りたがるのだ。 このごろ流行りの<自国民ファースト>というのも、そういうことであろう。 ハック少年の怪しげな歴史語りを挿入することによってそれを風刺していたとは、マーク・トウェイン恐るべし。
by suiryutei
| 2025-08-11 08:35
| 文学・書評
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