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今回の直木賞受賞作『カフェーの帰り道』(嶋津 輝)の表紙を開き、続いて中表紙もめくると、出てくる目次は、こう。 関東大震災(1923年)の2年後から始まり、1編ごと少しずつ時代は下っていって、戦後の復興が進む1950年で結ばれる。 短編5編のタイトルにはいずれも女性の名前が入っている。2作目からの<美登里><セイ><タイ子><幾子>は全て、小説の舞台となるカフェー西行で働く女給の名だ。 1作目の<稲子>はそうでなく、夫がカフェーの女給と深い仲になっているのではと心配する主婦であることは昨日の更新記事に書いた。冒頭作タイトルへのこのネーミングは、小説家として大先輩である佐多稲子に対するオマージュであろう、ということも。 さて3編目、4編目では戦争が陰を落としてくる。3編目『出戻りセイ』の主人公、女給セイが心を通わせあう常連客が神田五軒町の床屋で働く理髪師であることも昨日の更新記事に書いた。彼は兵役検査では小柄な体躯なので第二乙種であった。 「体格的に甲種に及ばない者は乙種となり、乙種はさらに一種と二種に分けられる(108ページ)。 つまり、乙種でしかもその二種となれば平時ならまず兵隊にとられない。そんな彼でさえ、二度も召集され、戦況が悪化した1943年の二度目の招集からは帰ってこなかった。 4編目『タイ子の昔』のタイ子は、初編『稲子のカフェー』において主婦・稲子が夫との仲を疑った人。稲子の夫の銀次は高等女学校の国語教師だが、カフェーでコーヒーを注文したとき受けたタイ子が注文を間違えて厨房に通したことから、彼女が字を読めないことに気づく。親切心と教育者気質から、ときどき彼女に字を教えてやるのである。もっとも、美貌のタイ子をにくからず思う気持ちが、ほのかながらあったようでもある。この銀次といい、カフェーのマスター菊田といい、優しくていい人すぎるのが、人物造形においてかすかに物足りなさを感じないこともない。 タイ子は若くして夫に先立たれたシングルマザーで、4編目に進むと一人息子の豪一も成長して兵隊にとられてしまう。国なんか守らなくてもいいから、とにかく生きて帰って来て。そう願う母親の気持ちは切実だ。 文学活動と共に社会変革運動にも突き進んでいった佐多稲子のようなタイプの人とは、この小説の作者はおそらく違うだろう。しかし、人々の心情をこまやかに描く筆致からは、戦争は嫌だ、もう起こしてはならない、という思いが静かに伝わってくる。 直木賞の発表がある前に連れ合いがネットで購入していたので、本の帯にはまだ<第174回直木賞候補作>となっています。
by suiryutei
| 2026-01-21 08:01
| 文学・書評
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