|
新人事制度 大阪での報告①~③
記事ランキング
最新の記事
タグ
労働(124)
最新のコメント
カテゴリ
最新のトラックバック
以前の記事
2026年 04月 2026年 03月 2026年 02月 2026年 01月 2025年 12月 2025年 11月 2025年 10月 2025年 09月 2025年 08月 2025年 07月 more... ブログジャンル
画像一覧
検索
|
第174回直木賞を受賞した『カフェーの帰り道』(嶋津 輝 著)について『伝送便』3月号に書いた書評を転載します。 第一七四回直木賞受賞作『カフェーの帰り道』(嶋津輝)が約一〇〇年前のカフェーで働く女性たちの物語で、舞台となるカフェーは「上野と湯島と本郷の狭間にある」と聞いて、それってまるで佐多稲子の世界じゃないのと、まず思った。 佐多稲子(一九〇四-一九九八)は、ちょうど一〇〇年前の一九二六年、離婚したあと本郷動坂のカフェー紅緑に勤めているからだ。そのころ中野重治、堀辰雄、窪川鶴次郎らと知り合い、文学への道に入って行くのである。 稲子をモデルにした人物が登場するわけではない。とはいえ、作者が佐多を意識したであろうことは、五編の短編のうち最初の作品のタイトルが『稲子のカフェー』であることからも覗われる。ここでの主人公・稲子は、しかしカフェーで働く女給さんでも左翼小説家でもなく、夫がもしかしたらカフェーの女給と深い仲になっているのではないかと不安にかられる四〇年配の主婦だ。その疑いはじき晴れるのだが。 三作目の『出戻りセイ』では、セイという女給さんと懇ろになる常連客は、神田五軒町の床屋で働く理髪師。現実のこんにちでは郵政共同センター(『伝送便』事務所)のあるあたりだ。小説の中では神田五軒町には床屋は二軒しかなくて、堀田理髪店と佐多床だという。一軒の店名が佐多というのは、冒頭作『稲子のカフェー』と同様、こういうネーミングによって大先輩に対して敬意をこめて挨拶をしたのであろう。 タイトルにはいずれも女性の名前が入っていて、二作目からの<美登里><セイ><タイ子><幾子>は全て、小説の舞台、カフェー西行で働く女給の名だ。 時がたち、次第に戦争が陰を落としてくる。三作目において、女給セイが心を通わせあう理髪師は、兵役検査では小柄な体躯なので第二乙種であった。平時ならまず兵隊にとられない。そんな彼でさえ、二度も召集され、戦況が悪化した一九四三年の二度目の招集からは帰ってこなかった。 四作目『タイ子の昔』のタイ子は、初編において主婦・稲子が夫との仲を疑った人。稲子の夫の銀次は高等女学校の国語教師だが、カフェーでコーヒーを注文したときタイ子が字を読めないことに気づく。親切心と教育者気質から、ときどき彼女に読み書きを教えてやるのである。もっとも、美貌のタイ子をにくからず思う気持ちが、ほのかながらあったようでもある。この銀次といい、カフェーのマスター菊田といい、優しくていい人すぎるのが、人物造形においてかすかに物足りなさを感じないこともない。 タイ子はシングルマザーで、一人息子の豪一は成長して兵隊にとられてしまう。国なんか守らなくてもいいから、とにかく生きて帰って来て。そう願う母親の気持ちは切実だ。 文学と共に社会変革運動にも進んだ佐多稲子とは、この小説の作者はおそらくタイプが違うだろう。しかし、こまやかな筆致からは、戦争は嫌だ、もう起こしてはならない、という思いが静かに伝わってくる。 ![]() ※関連して 佐多稲子の短編いくつか ~『労働者文学』No.94掲載 : 酔流亭日乗 ![]()
by suiryutei
| 2026-03-02 08:14
| 文学・書評
|
Comments(0)
|
ファン申請 |
||