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野間宏の短編小説『暗い絵』を、必要があって久しぶりに手にとってみた。 この本を初めて読んだのは高校二年か三年のときだ。高三の夏休みに同じ著者の長編『真空地帯』を読んだことははっきり記憶にあるから、おそらくその前だろう。 1930年代後半の京都。特高警察の監視の目が光る下での学生たち。その重苦しいような雰囲気だけは伝わってきたけれど、当時の酔流亭にはこの小説の持つ意味などまるでわからなかった。しかし、冬に向かう京都の、夜の町並みみたいなものは、なんとなくイメージできた。高二の秋に修学旅行で京都を訪ねていたので。 題名の『暗い絵』とは、ブリューゲルの絵のことである。 「草もなく木もなく実りもなく吹きすさぶ雪嵐が荒涼として吹きすぎる。はるか高い丘のあたりは雪にかくれた黒い日に焦げ、暗く輝く地平線をつけた大地のところどころに黒い漏斗形の穴がぽつりぽつり開いている。・・・」 まだずっと続くのだが、小説の冒頭に配置された、ブリューゲルの絵についての野間のこの描写は有名である。酔流亭が『暗い絵』をまた読もうと思ったのも、この叙述にじかにあたってみたかったからだ。よく言われるように、天皇制ファシズムの下での若き左翼インテリゲンチャの苦闘が、その描写にはかさねあわされているのだろう。 時代は、大陸での日本と中国の衝突が全面化へと向かっていたのである。小説の主人公・深見進介の友人たちは、この日中の衝突を「日本の支配階級の最後的な危機」と捉え、「プロレタリア革命への転化の傾向を持つブルジョア民主主義革命」の到来が二年以内に来ると考えている。そして、その実現のために全てを捧げねばならないと決意している。 深見は、そんな彼らに敬意と親愛の情を持つけれど、その活動に全面的にはついていけぬものを感じているのである。ついていけぬのを、深見は「エゴイズムに基づく自己保存と我執」によると考えている。しかし彼はその「我執」を捨てることはできないのである。 問題は、この「自己保存」と「我執」をどう考えるかだ。それは否定されるべきエゴイズムであるだけだろうか。 深見の友人、永杉英作や木山省吾たちの「二年以内に革命情勢が到来する」という情勢認識には、やはり誤りがあったのではないか。その主観主義的分析からは、実践における決意主義・決断主義が生み出される。そして彼らは投獄と獄死への道をすすんだ。「そう、彼は決行するだろう。そして直ぐに逮捕されるだろう。ただ旗を掲げ、旗の位置を示すだけで。そう、それは決して成功しやしない」(第五章)。 何が言いたいのかというと、「自己保存と我執」には、運動が陥りがちな観念的ラジカリズムをリアリズムの線に引き戻す積極的な役割もあるのではないか、ということだ。それは、運動参加者がよく思い込んでいるような、闘いの持つ厳しさから「逃げる」ことを結果するばかりではあるまい。 重要なのは、小説の終盤、深見進介と木山省吾とが京都の夜道を歩きながら交わす会話である。木山は自分たちの行動を「仕方のない正しさ」だと言い、しかし、この道を行く以外にないという決意を深見に打ち明ける。木山と別れたあと、深見はこう独りごちる。 「やはり、仕方のない正しさではない。仕方のない正しさをもう一度真直ぐに、しやんと直さなければならない。それが俺の役割だ。そしてこれは誰かがやらなくてはならないのだ」。 『暗い絵』の登場人物にはモデルがいる。そして実在した彼らは、小説の永杉英作や羽山純一や木山省吾が辿ったように投獄され獄死する。深見進介が分身であろう作者の野間宏は、彼らに最大の尊敬を捧げ、その運命に慟哭しつつ、なお運動の持っていた歪みをも見すえようとしているように思われる。 ※いまグーグルで『暗い絵』を検索したところ、このサイトでの故・久野収の発言を知り、共感した。『市民権思想の現代的意義ー国家・民族・党派を超えるものー』
by suiryutei
| 2007-11-04 10:47
| 文学・書評
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Comments(4)
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my_poppy at 2007-11-05 02:50
こんばんは!ご無沙汰しております。
先日、阿佐ヶ谷のジャズストリートという催しに髭彦さんをお誘いして、久しぶりにお目にかかることができました。 演奏も素晴らしかったのですが、会場になった「みや野」というお蕎麦屋さんもとても素敵でした。 酔流亭さんは、もしかしていらしたことはありますか? 髭彦さんも「良いお店ですね」と言ってくださいましたし、もしお近くにいらっしゃいましたら、是非。^^ ジャズの夜のことは、髭彦さんのブログで佐平次さんが”ブリューゲルの絵のような”と書いていらっしゃって、またこちらでもその画家の名前に出会い・・・、なんだか嬉しくなりました。
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suiryutei at 2007-11-05 17:54
菫子さん、こんばんは。
阿佐ヶ谷のジャズストリート、有名なイベントですね。お店が演奏会場になるんですね。 「みや野」、未訪ですが、もう随分前、妻と結婚前に彼女に行こうと誘われたことがあります。そのときは私は勤務の日で行けなかったんですが。 演奏曲目にピアソラの「リベルタンゴ」もあったとか。あの曲、大好きです。メロディがちょっとヤクザッぽいところがいい。 同じ時期に、佐平次さんが髭彦さんのところでブリューゲルの名を・・・。やはり、あのお二人とは縁があるなあ。
酔流亭さん、こんにちは。『群像』電子書籍版というのが来春に刊行されるそうで、そのプレ見本版がiPhone/iPad向けに無料配信されています。 http://bit.ly/h2eIvl その中に奥泉光・中村文則・島本理生による「暗い絵・顔の中の赤い月」合評が再収録されてましたので懐かしくネットをさまよっていたらこちらにたどり着きました。いつものようにtwitterで引用させていただきました。あっ、それと拙ブログへのコメントご丁寧にありがとうございました^^
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suiryutei at 2010-12-21 21:35
いっちゃんさん、こんばんは。
こんな文章を書いていたのを自分でも忘れていました。『暗い絵』については、つい最近も或る会合で話題になったのですが。
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